親の喧嘩を見て育つと視覚野が萎縮

例えば、性的虐待(性的加害だけでなく、風呂上がりで裸のまま子どもの前に出てくることなどもマルトリートメントである)や、両親の喧嘩やDVを目の前で見せられた子どもの脳は、視覚により情報を最初にキャッチする視覚野が健全な同年齢の対照群と比較して、有意に萎縮していたという。

視覚野とは、目から入り、網膜で視覚的神経情報へと処理されて送られる情報を受け取る脳の部位である。その一番最初に情報を受けるところを「一次視覚野」というのだが、画像検査の結果、一次視覚野の容積減少が目立っていたのだ。

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また、目の前でDVを見せられることは情動反応や記憶反応する部位の健全性にも影響していたという。

暴言DVのほうが身体DVよりリスク大

「子どもに直接的な暴力が及ばなくても、子どもの脳に大きな影響を与えることがわかったのです。また、身体的なDVと暴言DVのどちらに曝されるほうが子どもの脳に影響を与えるか検討したところ、暴言DVに曝されるほうが子どもの脳により大きな影響を与えることがわかりました。身体DVに限定する理解は被害を見えなくしてしまう可能性があるので、注意が必要です。

視覚野は目の前のものを見るだけでなく、映像の記憶形成にもかかわっています。この調査で、マルトリートメント経験者とそうでないグループ双方に対し、視覚による記憶力を測るテストも実施しました。すると、一次視覚野の容積が小さい人ほど、視覚による記憶力が低いこともわかりました」

そして、この「一次視覚野の容積減少」の理由を推測するには、実に悲しい推論が成り立つのだ。実は、一次視覚野においては、視覚に伴う感情処理も行われている。そのため、嫌な記憶やつらい記憶を思い出すと神経が活性化してしまうのだ。そのため、苦痛やつらい記憶を繰り返し呼び起こさないために、減少したのではないかというのだ。