元気がない部下がいると、とかく上司は得意の「飲んで歌って」コースに持ちこもうとします。でも、慣れないカラオケボックスという環境になじまねばと部下にかえって負荷がかかることも少なくない。そのため、曲の合間などに上司がつぶやいた、とっておきのアドバイスも心遣いも、相手の胸には届かない。また、部下に本音を吐露させる目論見も果たせないまま、ただの飲み会となるのです。
これは学校生活で言えば、放課後にいつもの教室で担任の先生に言われたことは鮮明に覚えていても、職員室に呼び出されて学年主任に言われた内容は記憶にないといったことと一緒。部下への自分の語りに自信がないから、上司は安易に「場」を変えようとしがちです。
けれど、いつもの仕事場で、部下の隣に座って静かに「自分はこんなにダメな人間」といった自虐ネタなどを披露するほうが、結果的には「心に染みる話」ができるものなのです。上司の命令が滅茶苦茶でも、なにも考えずに従うだけで済んだ時代は終わりました。いまや社会には草食系が増殖。わけもなく深く考えようとする迷える羊はすぐに心が折れるのです。
植木理恵
1975年、大分県生まれ。日本教育心理学会「城戸奨励賞」「優秀論文賞」受賞。著書に『本当にわかる心理学』『ウツになりたいという病』など多数。