「7NOW」が最初にターゲットにしていたユーザー像

2.新事業分野の戦略定石「ピボット」で考える意味

ここまでお話ししたのは、これまで自宅で宅配ピザを注文していた顧客を対象に考えると、セブン‐イレブンが焼きたてのピザをデリバリーすることは「ありかも?」という話でした。

しかしこの「ありかも?」というのは、どれくらいありそうなのでしょうか? ここが事業戦略を実行するにあたっての大きな課題です。ありそうなユーザーニーズというものは、実際に試してみても、あったりなかったり、あまり確率が高くはないものなのです。

そもそもセブン‐イレブンの今年春ごろの7NOWのサービスを紹介する画面を見ると、「あっ! 会議でランチ行けない!」「あっ! リモコンの電池がない!」「あっ! 間食のストックがない!」と困った顔で頭をかくひとたちの画像が見られました。サービスを開始した直後のターゲットユーザーはこの3つのケースだったのでしょう。

写真=iStock.com/shironagasukujira
※写真はイメージです

その日の仕事が忙しくてコンビニにも行けない人、急に何かが足りなくなって早く自宅までもってきてほしい人、そしてちょっとお腹が空いたのだけど家を出られない人。そういった人がたくさんいると思って始めた7NOWのサービスですが、やり始めてみるとその対象だけでは十分な売上が立たなかったとします。

全国約200店舗への拡大は「まだ実験途中」

ここは外部からはわからないところなのですが、新規事業では往々にして、いけるかなと思った新サービスが思ったようには伸びない状況というものがよく起きます。そのときの戦略定石に「ピボット」があります。

ピボットとはもともとはバスケットボールの用語で、ボールを持ちながら軸足を動かさずに、もう一方の足を動かして方向を変えることを意味します。

それと同じで新規事業でのピボットとは、大きな軸足は変えずに、少しずつ戦略の方向を変更してみることを意味します。この例で言えば、当初設定した3つのユーザーシーンとは別に、4つめのユーザーシーンとしてこれまで宅配ピザを注文してきたひとたちが、宅配ピザチェーンではなく7NOWを使うようになるという仮説です。

こういったピボット仮説はうまく当たる場合もあれば、当たらない場合もあります。ですから最初は小さく始めます。まず首都圏の約30店舗で始めたというのはそのセオリー通りの動きです。

それが、そこそこ手ごたえがあったのでしょう、今度は全国約200店舗に広げるというのが今回の発表です。この段階についても定石をもとにお話しすると、まだピボットの実験途中です。全国約200店に広げることの意味は、地域差があるとどう違うのかとか、都心と郊外で需要が違うのかとか、いろいろと実験をしてみたいことがまだあるということです。