精度はドクターイエローの方が高いが

JR東海の言うN700Sに導入される営業車検測機能の詳細は、後日発表されるとのことで詳細はわからない。とはいえ、現在も営業用の車両を用いての検測が新幹線で行われている。

東海道・山陽新幹線では電力設備、信号装置、無線装置の検測を最新バージョンのN700Sの一部に検測用の機器を搭載して実施しているし、軌道の検測も一部が可能となった。

九州新幹線や西九州新幹線ではドクターイエローに相当する専用の車両が存在せず、すべての項目の検査を営業用の800系やN700系という車両で実施している。

技術の進歩で機器が小型軽量化されたからで、しかも営業用の車両での検測には専門の担当者は乗車せず、基本的に無人で行っているそうだ。

こうなると、ドクターイエローがいまも検測を行っているのは無駄なのではと考える人がいるかもしれない。確かに電力設備、信号装置、無線装置の検測は営業用の車両でもドクターイエロー並みの検測が可能となった。

けれども、JR東海の発表をはじめとする各種の資料から、軌道の検測方法はドクターイエローと営業用の車両とでは根本的に異なり、精度はいまでも圧倒的にドクターイエローのほうが高い。技術革新の結果、営業用の車両でもドクターイエロー並みのデータを取り出せるようになったと言えばよいだろう。

時速270キロでも驚くべき高精度

ここから先は高校の数学や物理の話が出てくるので、抵抗のある方は読み飛ばしていただいてほしい。

軌道での検測の目的は、レールやまくらぎが本来敷かれた位置に存在しているかどうかを測ることだ。

レールやまくらぎのずれは上下左右方向に生じ、しかもレールの片側だけ、両側のレールともという具合にどちらでも起きる。複雑に生じた軌道のずれを検測する方法がドクターイエローと営業用の車両とでは異なるのだ。

ドクターイエローは軌道に生じたずれを見つけるため、軌道の3点以上の地点を常に測りながら走っている。検測に用いられているのは4号車に装着されている2基の台車、それから台車に取り付けられたセンサーだ。

筆者撮影
ドクターイエローが軌道を検測する仕組み 添乗室での映写より(2006年8月7日)

大ざっぱに言うと、前側の台車の2点、そして後ろ側の台車の1点を合わせた3点の上下左右の変位を見ながら三角関数の定理を用いて軌道のずれを連続して測定する方式で、差分法という。誤差0.3ミリ以内という高精度に加え、停止中でも時速270キロでも同じ精度で検測可能だ。

差分法の欠点は装置が大がかりになる点がまずは挙げられる。さらに、今日の営業用の車両のように台車側で横揺れや遠心力を低減させる装置が搭載されていると検測結果に影響を及ぼしてしまう。

乗り心地向上のための装置の効果を補正した軌道検測システムが開発されるのだろうと筆者は考えていたが、やはり難しいようでいまに至るまで開発されたという話を聞かない。

一方、営業用の車両が軌道を検測する方法を慣性測定法という。慣性測定法は高校の数学や物理で習う法則を用いている。