宮田選手を擁護する人々は、一般市民の誰もが従わなければならない一般規範に照らして処罰が厳しすぎると主張しています。しかし、今回問われているのは一般規範違反ではなく、団体規律違反の話です。ここでいう団体規律とは「オリンピック日本代表体操チーム」という、特定ミッションを帯びた団体内の規律を維持するためのルールのことです。
その団体規律において、トレセン内など代表チームとしての活動の場所では飲酒・喫煙を禁ずると明記しています。宮田選手が未成年であれ成年であれ、団体規律違反を行ったことは事実ですから、いったん代表から身を引いてもらうのはやむをえなかったというのが僕の考えです。
組織の長が擁護論に回らなかった理由
あとは飲酒や喫煙を禁ずるこの団体規律に妥当性があるかどうかという論点が残りますが、有名大学運動部などの団体規律ルールを参照する限り、合宿所など団体活動の場における禁煙・禁酒ルールは多くあり、日本体操協会の今回の団体規律が著しく不当とは思えません。
そう考える理由は、僕が知事・市長を経験し、団体規律の重要性を理解していることも理由のひとつです。
今回、ネット上で宮田選手擁護論を展開したのは、企業や行政組織の長を経験したことのない「自由人」がほとんど。ただ一人、猪瀬直樹さんだけは東京都知事を経験されましたが、猪瀬さんの場合は巨大組織である東京都庁をマネジメントするというよりも、アイデア豊富な副知事として個別事案に斬り込んでいった実績のほうが大きく、組織の長というよりも作家・自由人の色彩が濃い方です。
組織の長は団体規律を重視します。組織全体を運営する全責任を負うので当然のことです。ですから、今回の宮田選手のような団体規律違反は見逃せません。
環境犯罪学に「割れ窓理論」という有名なセオリーがあります。街や学校などで割れた窓を放置しておくと、注意が行き届いていないことの証左となり、やがて犯罪が増えていくというものです。また、労働災害分野には「ハインリッヒの法則」もあります。細やかな順法精神やミスを見逃していけば、それらはやがて中程度の事故を生み、最終的には大事故や大不祥事に発展するという考えです。
オリンピックは最高峰のスポーツ大会です。団体規律違反を見逃せばチームとしての士気の低下が懸念され、団体としてのパフォーマンスに影響しかねません。また小さなほころび、小さな油断が積み重なれば、大きな怪我や事故につながるおそれもあるでしょう。組織マネジメントの観点から見て、代表として活動する場所での禁酒・禁煙は著しく不合理なルールとはいえないし、団体規律違反による団体からの退場、すなわち代表辞退もやむをえないと僕は考えます。
ただ、世の中に完全無欠な人間は存在しません。五輪選手といえども人間です。ましてや19歳の若さ。今回の出来事で宮田選手の未来が完全に潰されるようなことがあってはなりません。失敗を糧に、宮田選手の再起と団体規律をしっかりと守ることのできる指導・環境をきっちり整えてほしいと願っています。