「学力」だけではなく「学習力」も身につけるべき

私は勉強とは本来、楽しいものだと思っています。教科書に書かれた知識を丸暗記するのではなく、自分で論理や思考をめぐらせながら、興味がわいたことを一つずつ学んでいく過程に喜びを感じます。自分の中に一つひとつの点として置かれていた知識が、ある時つながり、線となって広がった瞬間の世界がひらける感動は、何物にも代えがたいものです。

ですから、個人的には試験対策に見られるような詰め込み式の学習は好きではありませんが、だからといって脳科学的に意味がないわけではありません。脳のシナプスをつくるためには、繰り返しの刺激が重要ですから、知識を記憶するという点では効果があります。

しかし、それで勉強の喜びに触れることができるのか、子どもが自ら学ぼうとする意欲を育てることができるのかは甚だ疑問です。詰め込み式の学習では、「学力」は身につきます。学力は、「おりこうさんの脳」を活性化させ、新たな知識や情報を得ることで育っていきます。

例えば、漢字ドリルを使って一生懸命、漢字を書いて覚えれば「おりこうさんの脳」が働き、知識は身につきます。しかし、たくさんの漢字や四字熟語を覚えても、それを自身の文章の中に織り込むことができなければ、論理や思考は育ちません。その人ならではの論理や思考は独創性と呼ばれ、「こころの脳」の働きによって育まれます。

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人は独創性を発揮できた時に喜びを感じ、「もっと勉強して新しい知識を身につけたい」と自然に思えるようになります。この脳の働きを、私は「学力」と区別して「学習力」と呼んでいます。

学習力を伸ばすには家庭での学習が最適

残念ながら今の教育制度は、子どもの「学力」を伸ばしてもらうことはできても、「学習力」を育ててもらうことはあまり期待できません。そこで必要なのが、家庭での学習です。生活こそが子どもの「学習力」を伸ばす場だと考えます。

では、学校で習った「学力」を「学習力」に昇華させるには、どのような方法があるでしょうか。例えば、学校で習った漢字を何回もノートに書き写す代わりに、一つの漢字をピックアップし、その字にまつわる世界を広げていきます。では問題です。あなたは「本」という漢字で、どれだけ世界を広げられるでしょうか?

次のような質問を、子どもに投げかけてみるのも一つの方法です。

「本という漢字は、木という漢字と似ているね。なんでだろう?」
「木の葉っぱみたいにページがいっぱいあるから? 昔の人は木に文字を書いていたのかな?」
「なるほど、面白い視点だね。少なくとも石には文字を書いていたという証拠が残っているよ。ロゼッタ・ストーンといって、大英博物館に展示されているよ」
「へえ、本物を見てみたいな。その博物館はどこにあるの?」
「イギリスのロンドンという街にあるよ。一緒に地図で調べてみようか」