なぜ次々に新商品を展開できたのか

宅急便事業を始めるにあたり、昌男が決断したのは「サービスが先、利益は後」という考え方。この発想は設備投資や社員採用にも生かされた。「社員が先、荷物は後」「車が先、荷物が後」というモットーも掲げ、社員数や集配車両の台数を積極的に増加。サービス水準を上げることで、潜在需要の開拓をしていったのである。

また、企業の成功には「現場が自発的に働く体制」が不可欠だと考えた。宅急便事業は、従業員全員が経営に参加し、責任感を持って仕事に取り組むことが大事だ。現場の意見やアイデアを尊重し、現場からのフィードバックを経営に反映する仕組みも整えた。さらには、対立関係だった労働組合を、共に企業の成功を目指すパートナーとして、むしろ強みとした。

宅急便は、従来のトラック輸送とは異なる全く新しい「業態」となった。宅急便を集配するための車両、荷物を仕分ける機械、車両の運行管理や荷物の追跡をする情報システム、そしてセールスドライバーの作業マニュアルなどを開発・改良しながら、商品ラインに「クール宅急便」「宅急便コレクト」「ブックサービス」「スキー宅急便」「ゴルフ宅急便」などを揃えた。クール宅急便のように巨額の新規投資が必要だったものもあるが、新商品を展開できたのは、利用者の潜在需要を確実に読み取ることができたからだ。

日本型組織の中で何よりいけないのは、年功序列の仕組みだ。企業が成長すれば、組織は肥大化し、官僚的になる傾向がある。

そこで昌男は、ピラミッド組織からフラットな組織を目指し、部下の目で見た「下からの評価」や同僚による「横からの評価」を取り入れ、社員の人柄を評価するなどして、組織の肥大化と、活性化の道を探り続けた。

最後に、経営者の資質について述べている。経営者には「論理的思考」と「高い倫理観」が不可欠。時代の変化により業績の消長は逃れられないかもしれないが、ヤマト運輸の後輩諸君が、世間に対し胸を張って歩み続けることを願ってやまない、と記した。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。

(構成=篠原克周 撮影(書影)=市来朋久 写真=時事通信フォト)
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