復興するまでの被害総額は1000兆円以上
この危険度ランクは五年ごとに更新されており、2018年2月に東京都が公表した図を前回の2013年と比べると、建物倒壊の危険度は2割、また火災の危険度は4割低下した。地域危険度一覧表に表示される危険性とともに、首都圏に林立する高層ビルやタワーマンションの安全性が問題となっている。
政府の地震調査委員会は今後30年以内にM7クラスの大地震が発生する確率を70%程度としてきたが、それを受けて2024年3月に土木学会の小委員会(委員長、藤井聡・京都大学教授)は首都直下地震が起きた場合に、復興するまでの長期的な経済と資産の被害が総額1001兆円に上るとの推計を発表した。土木学会は6年前に778兆円としていたが、その後の研究成果を踏まえて3割近い上方修正を行った。
1001兆円の内訳は、国内総生産(GDP)の損失を表す経済被害954兆円、また被災した建物などの被害額を表す資産被害47兆円である。経済被害は具体的には道路・港湾・生産設備の長期的な損壊による被害である。このほか国や自治体の財政収支の悪化を表す「財政的被害」が389兆円生じると推計した。
具体的には、発災後の復興費353兆円と税収減36兆円を合わせた財政赤字の増加を意味する。
建物の耐震化や港湾の堤防建設を急ぐべき
これまで内閣府は、首都直下地震による犠牲者を最大2万3000人、経済被害を142兆円と推計してきた。これに対して土木学会の推計は、20年間の長期的な経済への被害も算出したもので大きな開きが出ている。ちなみに、土木学会による20年間の南海トラフ巨大地震の経済被害総額は6年前に1410兆円と報告されたが(内閣府は220兆円)、新しいデータに基づいて今後見直しを行う予定とされる。
このほか太平洋沿岸での高潮による経済被害も報告され、東京湾で115兆円、伊勢湾で126兆円、大阪湾で191兆円と推計された。さらに気候変動によって世界の平均気温が2度上昇した場合に、全国109の河川で総額537兆円の被害が出ると試算している。
こうした経済被害を減らす対策として、道路・港湾の耐震化や堤防建設を行うことによって、首都直下地震で4割、高潮で2〜7割、洪水で10割減らすことができると土木学会は提言した。
具体的には、道路網の整備、電柱の地中埋設化、建造物や港湾の耐震化などの公共インフラ整備に21兆円以上を投じることで、経済被害の4割に当たる369兆円を減らせるという。また復興にかかる期間が約5年短縮されることで、復興費用が137兆円、税収減少が14兆円圧縮され、結果として151兆円の財政効果が生まれると試算した。