工場地帯では海上火災のリスクも

木密地域に住んでいる場合には、その外側までの避難が望ましい。地域一帯が火の海と化してしまう前に退避するのが肝要である。すなわち、一番近くの避難所にも火が回って、火災旋風に襲われるリスクを考えておく必要がある。

木密地域は関東大震災当時と比べて減ったとはいえ、首都圏にはまだたくさん存在する。地震を生き延びても、つぶれた木造家屋に火が回って命を落とす可能性はまだ残っている。東京都は首都直下地震が起きた場合に最大で915件の火災が発生すると想定している。

東京湾の沿岸には工業地帯特有の火災リスクがある。林立する石油タンクからの油漏れによる爆発や火災が起こる恐れがある。東京湾を震源とする直下型地震が起きた場合、液状化によって石油タンクが沈み込み倒壊する可能性がある。また直下型地震によって想定されている津波が押し寄せると、液状化で倒壊したタンクから油が広範囲に流出する恐れがある。

石油タンクの屋根が液面の揺れ(スロッシング現象。)によって破損すると、容器内の液体が外部へ溢れ出ることがある。たとえば、東日本大震災では宮城県気仙沼けせんぬま湾を津波が襲った後に流出した重油や軽油が炎上して二日間燃え続けた。東京湾にはこうしたスロッシングにより溢れ出やすい浮き屋根式タンクが約600基あり、首都直下地震が起きた際の油漏れによる海上火災の発生が懸念されている。

災害発生時にリスクが高まる「群衆雪崩」

さらに、多数の化学コンビナートが林立する東京湾は、発火性の危険物質の漏洩ろうえいや有毒ガスの発生によって広範囲で避難が必要になることが予想される。港湾内で火災が発生すると海面に流出した燃料に引火し、陸上の大規模な火災へ発展する可能性もある。首都直下地震ではこのように、強震動による建物倒壊など内陸部の直接の被害にとどまらず、湾岸地域に特有の複合災害も警戒しなければならない。

人口の密集した都市部の直下型地震では、地震発生後の間接的な人的被害が大きな問題となる。地震がいったん収まると家路に就こうとする人々が道路を埋め尽くす。ところが車道には車が渋滞し、歩道も人で溢れかえっている。

こうしたとき、多数の人が押し合うことで将棋倒しになる「群衆雪崩なだれ」が起きる。人が密集した場所で一人が倒れることで周りがなだれを打つように転倒してしまう現象である。転倒した人の後ろや左右から次々と人が引き込まれて大勢が圧死する(図表3)。

これを防ぐためには、地震直後にできるだけ移動せず人の密集に加わらないことが肝要である。被災したとき駅などへ向かわず、職場や自治体が指定した「一時滞在施設」などに避難することも考えた方がいい。