「火災旋風」が甚大な被害をもたらした

人口密集地域の直下で起きた地震では、強震動による建物倒壊など直接の被害に留まらず、火災をはじめとする複合要因によって災害が拡大する点が問題となる。首都圏の震度分布図を見ると、下町と言われる東京23区の東部では地盤が軟弱なために建物の倒壊などの被害が強く懸念される(図表1)。

これに対して東京23区の西部は東部に比べると地盤は良いが、木造住宅が密集しているために大火による災害が想定される。こうした地域は「木造住宅密集地域」(略して木密もくみつ地域)と呼ばれ、防災上の最重要課題の一つとなっている。具体的には、環状6号線と環状8号線の中に挟まれている、幅4メートル未満の道路に沿って古い木造建造物が密集する地域が、最も危険である(図表2)。

東京都が2022年5月に十年ぶりに改定した首都直下地震の被害想定では大規模な火災に関する対応が重要な課題とされた。1923年の関東大震災では10万5000人以上が死亡したが、前述のようにその約9割が次に述べるような「火災旋風せんぷう」を引き起こした火災による犠牲者だったからである。

都庁と同じ大きさの“炎の渦”が東京を襲う

木造家屋が倒壊した地域で局所的に発生した火災が、周辺から空気を取り込むことで急激な上昇気流が発生する。これが次々と増幅されて最大200メートル以上の巨大な火炎をともなった渦になる。

ちなみに、この高さは東京・新宿にある都庁舎に匹敵するが、火柱のように炎が渦を巻いて高く立ち上ると事実上消火活動は不可能となってしまう。また、火災は地震が止んでしばらく経った後にも発生する。たとえば、停電後に電力が復旧してから起きる「通電火災」がある。地震によって散乱した室内で電気ストーブや照明器具に自動的に電気が通り、近くにある可燃物に着火する場合がある。

通電火災は阪神・淡路大震災や東日本大震災において、火災による二次災害が頻発したことでその原因として注目された。首都圏の木密地域では他の地域に比べて延焼の可能性が高い。もし延焼が拡大すると約3日間は断続的に燃え広がり、焼失棟数が想定以上に増加すると指摘されている。したがって、個人による消火が困難と判断したら、直ちに安全な場所へ避難しなければならない。