「シンプルで美しい」理論のほうが正しい

ケプラーの第1法則は、「地球を含むすべての惑星は太陽の周りを回っており、その軌道は太陽を焦点の1つとする楕円である」と言っています。円軌道ではなく、楕円軌道であると考えることにより、極めて正確に惑星の動きを説明できることがわかったのです。

この結果は、天動説に関するプトレマイオスの理論をも凌駕していました。

プトレマイオスの理論に比べてコペルニクスの地動説のほうが予測精度が低かった最大の理由は、惑星が太陽の周りを、円ではなく楕円を描いて回っていたからだったのです。したがって、ケプラーの理論であれば、観測データと完全に一致します。

天動説に合わせるために無数の規則を編み出すよりも、たった1つの理論で、すべてを説明できる地動説のほうが、自然であり、シンプルです。このことは、自然の物理法則を考えるうえで、非常に重要な評価基準となりました。

この件に限らず、物理学には、「こちらのほうがシンプルで美しい」という理論のほうが、正しいという事例が多くあります。私はそこが、物理学の魅力だと思っています。

「えっ、たったこれだけの規則で、こんなに多くの物理現象を説明できるんだ!」と驚くとともに、世界の知られざる成り立ちを垣間見ているような感じがするのです。

天体の運動を「物理学」でとらえ直した

次いで、ケプラーは、「第2法則」を発見しました。これは、「太陽と惑星を結んだ線分が、一定時間に通過する面積は常に一定である」というものです。

この法則が成り立つ理由は、惑星が太陽に近いと重力(万有引力)が強くなるため、惑星の運動は速くなり、逆に太陽から遠いと重力(万有引力)が弱くなるため、惑星の運動は遅くなるからです。

そして、ケプラーはさらに、「第3法則」にたどり着きます。「公転の周期の2乗と、長半径(楕円の長い方の半径)の3乗の比は、どの惑星でも同じである」というものです。

「(公転周期)2÷(長半径)3」という値は、惑星の質量などには寄らず、同じ値になるということを表しています。この値はのちに、重力(万有引力)と太陽の質量によって決まることが、数学的に確かめられました。

第2法則と第3法則はどちらも惑星と太陽間の重力(万有引力)に関するものです。ケプラーも重力に関する重要な法則を発見しているのです。

ケプラー以前の天文学は、主に幾何学(図形)の視点でとらえられてきました。それに対し、天体の運動を物理学的視点でとらえ、説明しようとした最初の人物こそが、ケプラーだったのです。その点においてケプラーは、天文学だけでなく、物理学の歴史においても多大な功績を残した人物の1人と言えるでしょう。

野村泰紀『なぜ重力は存在するのか』(マガジンハウス)

とはいえ、ケプラーは、ケプラーの3法則が成り立つ理由を解明することはできませんでした。ケプラーの3法則は、あくまでも天体観測に基づいた経験則にすぎませんでした。

しかし、ドイツ出身の天才理論物理学者のアルベルト・アインシュタインは、ケプラーの偉業をこう称えています。「ケプラーの偉大な功績は、知性による発見は観測された事実との比較のみから得られるという真理に関する、非常に美しい例証である」と。

そして、ケプラーの死から約13年後、ガリレオの死から約1年後の1643年に生まれ、ケプラーの3法則を理論的に導くことに成功したのが、イギリスの天才科学者アイザック・ニュートンだったのです。

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