「習慣を実行しないと気持ち悪い」を目指せ
独学を続けるためのもう一つの技法が「習慣レバレッジ」です。独学は、いわば長い時間をかけて自分を変えていくための取り組みです。長期にわたる学習や読書を達成するには、何より習慣化することが大事になります。
生活習慣がきちんとしている人は、独学しやすいといえます。時間の使い方が構造化、規格化されているので、習慣として独学の時間を当てはめやすいからです。逆に生活が不規則な人は、独学の時間を毎日繰り返し確保することが難しいかもしれません。しかし、どんなに生活が不規則な人でも、生きていくために最低限必要な習慣は持っているはずです。そうした既存の生活習慣を、新しい習慣を始めるための「てこ」として利用するのが習慣レバレッジです。
やり方は、まず足がかりとなる生活習慣を選びます。そして、その習慣の前後に新しい習慣を行います。この2つの行動を繰り返し、少しずつ重い習慣に変えていくのです。
人間は誰しも、必ずご飯を食べたり睡眠を取ったりします。また通勤している人であれば通勤時間など、毎日繰り返している動かしがたい時間の枠組みがあるはずです。それに合わせて学習や読書の時間を取るようにすると、新たな習慣として定着しやすくなります。ポイントは、最初から負荷をかけすぎないこと。できるだけ短時間や少ない分量で始めて、慣れてきたら少しずつ時間や分量を増やしていくようにします。
習慣化できると、続けることが非常に楽になります。毎日歯磨きをするのに苦労する人はあまりいないはずです。習慣化してしまうと、むしろやらないほうが気持ち悪くなったりします。それくらいになるまで続けられるとよいでしょう。突発的なことが起こると習慣は崩れやすいですが、このやり方を知っていれば、勉強や読書を再開するときにも使えます。
習慣レバレッジは、心理学者のデイヴィッド・プレマックが提唱した「プレマックの原理」に基づいています。この原理が登場するまで、行動療法の基本は「アメとムチ」でした。良いことをすればアメを与え、悪いことをすればムチを与えることで、良い行動が増え、悪い行動が減るというシンプルな考え方です。しかし、アメをずっと与え続ければ、アメを嫌いになる恐れがあります。だからといってアメに代わる新たな「ご褒美」を見つけるのも容易ではありません。それに対してプレマックは、ご褒美を与えなくても、高頻度の行動に低頻度の行動を伴わせることで、低頻度の行動が高頻度の行動に合わせて増えることを発見しました。これがプレマックの原理です。
勉強や読書も、食事の前後など、日々の生活習慣に合わせて行うと続けやすくなります。食事に限らず、通勤の移動時間を利用してもいいですし、帰宅時に駅前のカフェなどに寄って1時間、勉強したり読書することを習慣にするのもよいでしょう。日課と組み合わせて行うことが、独学を継続させるポイントです。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。