「忘れるのが当たり前」なら頭の回転が速くなる

速読は、大部分を忘れることを前提としています。そもそも記憶は、思い出し方によって①再認(再認識記憶)、②再生(再生記憶)に分けられます。一字一句は再現できないけれど「見たことがある」と認識できるのが、再認識記憶です。一方で読んだ文章を一字一句再現できるのが再生記憶です。速読で実現できるのは、このうち再認識記憶です。これは普通の読み方でも同じです。もし、再生記憶を実現したいと考えるなら、速読と記憶術を組み合わせるといいでしょう。たとえば①何度も繰り返し読む、②自分の経験と関連付けて覚えるようにする、③紙に書き出す、などの方法があります。

記憶には前述の再認識記憶、再生記憶の2つに分ける以外に、「短期記憶」と「長期記憶」に分ける方法があります。短期記憶は一時的に情報を覚えているだけですが、長期記憶は時間が経っても、思い出すことができます。脳にインプットされた情報は、最初はすべて短期記憶として保存されます。しかし、その情報が使われないと、脳が「不要な情報」と判断して、消してしまいます。脳に「必要な情報」だと判断させるには、記憶した情報を何度も使うのが効果的です。言い換えれば「反復学習」です。何度も繰り返し読むことで、長期記憶ができるようになります。反復学習で重要なのはスピードです。とくに最初は短期間で反復サイクルを増やすのが有効です。そのときに「忘れるのが当たり前」の心構えで再認識記憶の情報量を増やすことを目指してください。

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自分の経験と関連付けて覚える方法は「エピソード記憶」とも呼ばれ、長期記憶に分類されます。経験は文字と比べて、思い出しやすいものです。何度も読み返しながら、文字と経験を結び付けていくと、記憶を定着させることができます。関連付ける経験が見つからない場合は、読んだ内容を自分なりに理解して書き出してみるといいでしょう。「書き出す」フォーマットを気にする必要はありません。自分の理解に沿って、どんどん書き出してください。「書き出す」というアウトプットが経験となって、文字と結びつくのです。

こうして速読を身に付けると、ビジネス上でも大きなメリットが得られます。たとえば情報処理能力が高まることです。本を読むことは、書かれている文字情報を処理することにほかなりません。速読によって処理能力そのものが高まり、頭の回転が速くなります。私が速読を教えている生徒さんの中には、「メールチェックが半分くらいの時間で終わるようになった」という人もいます。同じ仕事をこれまでよりも短い時間で処理できれば、時間に余裕ができて、割り込みの仕事にも柔軟に対応できるようになります。時間資産は1日24時間しかありません。しかし、速読をマスターすることで使える時間を増やすことができるのです。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。

(構成=向山 勇)
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