喫煙リスクを当人は低く見積もりがち

例えば、「自分が肺がんになる確率」を小さく考えてしまう傾向を明らかにした研究があります。

この研究では、喫煙者を集めて2グループに分け、1つ目のグループには「非喫煙者と比較して平均的な喫煙者が肺がんになる確率」を尋ね、2つ目のグループには「非喫煙者と比較して自分が肺がんになる確率」を尋ねました。

結果は図表1の通りで、「自分がなるリスク」は「平均的な喫煙者がなるリスク」よりも小さく見積もられることがわかります。「自分は大丈夫」という楽観が働いているのです。

この楽観が、肺がんの予防行動や治療態度に影響を及ぼすことは明らかでしょう。「自分は肺がんにならない」と思っている人が、日々の努力を要する予防行動を継続できるとは思えないからです。

なお、この研究では約55%の喫煙者が「自分が肺がんになるリスクは非喫煙者の2倍以下だ」と考えているのですが、日本医師会によると、喫煙による肺がんのリスクは、男性は約4.8倍、女性は約3.9倍になるそうです。

自分事か他人事かにかかわらず、全体的に強い楽観があるようですね。

研究で明かされた「お花畑脳」

「自分だけは大丈夫」という思い込みは、病気だけではなく日常的なイベントについても起こります。しかもこれは、ネガティブなイベントを起こりにくく感じさせるだけではなく、ポジティブなイベントを起こりやすく感じさせる方向にも働くことがわかっています。

様々なライフイベントを羅列して、「同大学同性別の人と比較して、そのイベントが自分に起こる確率はどのくらいだと思うか」と尋ねた研究がわかりやすくて面白いので紹介しましょう。

このリストには「家を買う」「初任給が1万5000ドル以上になる」「80歳以上まで生きる」「仕事で表彰される」などのポジティブなイベントと、「アルコールで問題を抱える」「結婚後数年で離婚する」「肺がんになる」「大学を中退する」などのネガティブなイベントの両方が含まれていました。

この研究では、プラスに大きい数値であるほど「他人には起こらないだろうが、自分には起こるだろう」と考えているイベントになるように測定されていました。

結果はどうだったでしょうか。

「家を買う」は平均で44.3、「初任給が1万5000ドル以上になる」は平均で21.2という値だったのに対し、「結婚後数年で離婚する」の平均はマイナス48.7、「肺がんになる」の平均はマイナス31.5という値になっていました。

つまり、「いいことは自分に起こると思いがちで、悪いことは起こらないと思いがち」であることが、かなりわかりやすく示されているのです。