名作はまずあらすじを読んだほうがいい

古市 ずっと追いかけているテーマはありますか。一生かけてこの大陸の地図を明らかにするんだというような。

三宅 家族とか戦後とかぼんやりしたものはありますが、具体的に決めているものはないです。気になっている範囲の地図を埋め終わったら、そのとき気になっている次のテーマにいく感じですね。

古市 テーマが内面から次々に湧き上がってくるんでしょうね。僕は「これが今必要とされている」とか「これはまだ誰も取り組んでいない」という視点でテーマを選ぶから、その感覚がよくわからない。

三宅 古市さんは、小説は読まれますか。目的ありきの読書だと、フィクションはあまり選択肢に入ってこない気がします。

古市 読みますよ。ただ、小説も心で味わうというより、データ収集という感覚に近いですね。言葉遣いや小道具一つをとっても時代の雰囲気をつかむのに優れた媒体だと思います。

ただ、物語の筋書きや構造は意識しますね。この小説はあの映画と同じパターンだな、とか。どういう流れで物語が展開するのかを整理しておくと、自分の作品の参考にもなります。

三宅 古市さんは対談本『10分で名著』で、プルースト『失われた時を求めて』を紹介されていました。読了に何カ月もかかりそうな超大作ですが、ボリュームのある作品でも筋書きや構造を意識した読み方をされるんですか。

古市 確かにプルーストは物語全体の筋書きを辿るのが大変。むしろ個別のエピソードや描写が面白いと思って読んでいます。

だから筋を追って順番に読む必要もないと思っていて、適当にパッと開いたところをたまにつまみ食いするという付き合い方をしています。一生かけて結果的に全部読めればラッキーかなと。

読書好きの三宅さんからすると、あらすじだけを取り出したり、断片的につまみ食いするのは小説の読み方として邪道かもしれませんが……。

三宅 いや、私も名作文学はむしろあらすじから読んだほうがいいと思います。とくに長い小説はそう。あらすじを知らないまま長編小説を読むと、物語の展開を追うことだけに必死になって他の要素が頭に入ってこなくなるんですよね。

プルーストはもちろん、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』やデュマ『モンテ・クリスト伯』のような長い小説も、まず全体像を把握して、キャラクターについてもある程度情報を入れてから読んだほうが、「このセリフ、いいじゃん」とか「この場面は面白い」と小説の細部を楽しめるはずです。

古市 それこそ、ChatGPTに読みたい小説を伝えて、自分が読みやすい文体で要約させるのもありですね。かつて橋本治は『枕草子』を若者言葉に翻訳したり、『源氏物語』を光源氏の一人称で書き直したりしました。同じように、AIを使って古典をポップな携帯小説風にしてもいい。難解な小説でもとっつきやすくなります。