三宅 古市さんは読書エリートだったのでしょうか。子どものころはどんな本で育ったのですか。

古市 僕は趣味のための読書はしたことがないんです。子どものころから世界名作文学集などには全く縁がなくて、手に取っていたのは絵でわかる図鑑ばかり。いわゆる本好きとか読書家の類いではありませんでした。

三宅 でも本はたくさん読んでいそうなイメージです。

古市 目的のある読書はよくしています。原稿を書くために調べるとか、テレビでコメントするために予備知識が欲しいとか。何かしらのアウトプットありきの読書です。

先日はテレビでパリ五輪について何か話さなければいけないことになり、佐々木夏子『パリと五輪 空転するメガイベントの「レガシー」』を読みました。パリ在住の翻訳家の方が書いた本で、長年にわたる現地の反対運動の様子が生々しく書かれていました。最終的にテレビでその話をするかはわかりませんが、仕事がきっかけになって読んだ本が面白かったことは多いですね。

三宅 テレビの場合、向こうから「これについて話してください」と依頼がありますよね。そういうときは本選びもしやすいですが、自分でテーマを設定するときはどうしていますか?

古市 なるべくその場所に行くことを意識しています。僕は今万博について調べていて、実際に過去の万博開催地に足を運んでいます。行けば疑問が湧いてきて、頭の中に浮かぶ検索ワードも変わってくる。すると、手に取る本も自然と変わっていきます。

三宅 社会学はフィールドワークと文献の両方がある世界。古市さんはやっぱり社会学の方ですね。私は文学研究だったせいか、テキストと向かい合うのが好きなんです。過去の歴史を調べるときも、その場所に行くより、本に書かれたその時代の人の言葉の中に知りたいことが潜んでいる気がして、ひたすら読んでいます。

古市 三宅さんはいわゆる読書好きですよね。僕のように目的が先にあるわけじゃないとしたら、どうやって本を選ぶんですか。

三宅 自分で考えたいことがいつもぼんやりとあるんです。必ずしも仕事とは関係ないことも多いんですが、考えていることの周辺を埋めるように本を読んでいます。

例えば今流行っているものを見て「なぜこれが流行っているのか」と疑問が湧いたら、背景も含めていろいろ知りたくなる。そこで本を読む。知る行為を楽しんでいるというより、未読のメールが残っていて、処理しないのは気持ち悪いという感覚に近いです。