M&A先の会社に新入社員として配属され、社長業をみっちり修業

下村さんが選んだ次なるステップは、“地方のものづくり力とIT”を掛け合わせ、地方企業に共創型のM&Aやコンサルティング業を行う、MOON-Xの創業メンバーへの転身だった。

創業者は下村さん同様P&Gに勤務し、Facebook JapanのCEOを務めた長谷川晋さんだ。

当初地方発のクラフトビールや化粧品など、ゼロイチでモノづくりを行っていたが、それではコストも時間もかかる。短時間で結果を出すには、日本全国にあるブランドのポテンシャルをグンと伸ばすほうがいいのではと、方向転換した。それならば下村さんもお手のものである。

そしてM&Aの対象の一つになったのが、D2C企業のケラッタ(旧やまびこ屋)だった。

おもしろいのは、下村さんは新入社員としてケラッタに入社したこと。

「普通、M&Aといえば、すべての契約が終わって会社の譲渡が完了してから、社員に知らされ、新しい会社の人間がやってくるパターンが多いです。でもケラッタは違いました。M&Aの前に、今度こういう会社の下村さんという人が来るからと、社員に前社長が伝え、それから3カ月間みっちり社長業を伝授されたのです」

前社長の社長業特訓はかなりハードなものだった。ケラッタはECがメインなので、楽天やAmazonの徹底研究はもちろん、いきなり無茶振りの課題をだされたことも。

写真提供=ケラッタ

「私が次期社長で大丈夫か否かを見定められていたのでしょう。新宿駅から特急に乗って長野県塩尻市にあるケラッタに向かう際、電車に乗った途端、到着までの2時間半で製品情報を全部覚えてこいと厳命されて。でも、私はある程度の商品情報はすでにインプットしていたので、なんとかなりました」

かと思えば、

「この商品がベストセラーになったのはなぜか? 仮説を立てて自分で検証して発表せよという課題が出されたこともあります。その時は5つ立てた仮説の中で4つクリアしたのですが、1つは不正解。で、『そんなこともわかっていないのか』とけちょんけちょんにこき下ろされました(苦笑)。今思えば愛のムチですが」

創業者からすれば、苦しんで産み育てたわが子のような会社を、そんじょそこらの人間に渡したくないとの思いだっただろう。