支給開始年齢の引き上げ議論を

こうした年金受給者の窮乏化を防ぐ手段はある。

それは年金受給開始時期を伸ばすことで毎年の年金受給額の減額を防ぐことである。例えば、2024年で20歳の場合、66歳10月まで(約45年間)継続的に就業すれば、現在65歳のモデル世帯と同じ61.2%の所得代替率が維持可能というケースも示されている。これを任意ではなく、なぜ標準ケースに置き換えないのか。

年金財政安定化のために、政府は毎年の年金額を引き下げる「年金減額(マクロ経済スライド)方式」を定めた。しかし、他の多くの先進国では、この年金額の引き下げの代わりに、年金の支給開始年齢の67~68歳への引き上げで対応している。

日本は厚生年金などの支給開始年齢を3年に1歳ごと引き上げ、2025年に男性については目標の65歳に到達する。だが、ここで止めるのではなく、同じペースで67~68歳まで引き上げれば、毎年の年金水準の削減する度合いは大幅に軽減するはずだ。現役時代に保険料を払う期間が伸びても、毎年の受給額を減らさずにすむ可能性が十分にある。長生きをすれば、トクということだ。

これらの年金の抜本改革は政治主導でなければ決断できない。

国民・厚生年金の受給開始を60歳から65歳への引き上げを決定した約30年前の制度改革時には、当時の年金官僚の周到な準備の上で、高齢化社会の危機を認識した与野党政治家の合意で、国民を説得して実現した。

少子化を含む人口変動のリスクがより高まっている今日、能天気な財政検証の条件で、年金制度の必要な改革から逃げるという政治の判断は、あまりに安易で無責任と言えるのではないだろうか。なお、本稿は制度・規制改革学会提言に拠っている。

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