天体の運動を変えた人類初の実験に

近づいていきながら、こんなふうに隕石が地球にやってきたらと、少し怖い気持ちにもなりつつ、宇宙機が最後の最後までデータを地球に送っていたので、ディモルフォスに飛び込む直前まで、近づく表面の様子がライブでも見えていました。

衝突する場面に立ち会うのは、今考えると、SLIMの着陸を見守った時やH3ロケットの打ち上げを見た時とは正反対なくらい、現実を見守ったのか確かでないような、全く違う種類の感覚が身を覆っていました。

NASAは、この衝突でディモルフォスの公転周期を73秒以上変えることができれば実験は成功だと発表していました。実際には32分ほど縮んだとのこと。人類が初めて天体の運動を衝突により変えた実験となりました。

「二重小惑星進路変更実験(DART)」のイメージ図(JPL/NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)

ただ、手放しには喜べません。このように公転周期が大きく変わったということは、実験前の予測を驚くほど上回る事態です。人類が予測できることには限界があるということを再認識する機会にもなりました。

人類が手をとり合って議論すべき問題

隕石が地球にぶつかるような場面を回避することは「プラネタリー・ディフェンス(地球防衛)」のひとつですから、このような事態には入念な備えが必要です。天体衝突は起こるものなので、その時が来る前に実験をしたり、事前に現実的で最善の方法を議論しておいたり、そのために必要な協力体制を作っておかなくてはなりません。

宇宙での天体衝突に地球がかかわってくる場合は、地球に住む私たちがどのように協力するかをある程度決めておくことが要になりますから、隕石を観察する天文関係者、メカニズムを考える科学者や実験のための宇宙機を作るエンジニアだけが考える問題ではありません。

本書では国際的な宇宙法の整備が必要だという点に触れていますが、プラネタリー・ディフェンスも、人類が手を取り合ってその賛否も含めて指針を話し合う時に来ていることは間違いありません。