1日8万個を検査、創業以来クレームはゼロ
泰交精器は創業してからの5年間、一度もクレームを受けたことがない。ここにも、田中さんがパート時代から「ぼーっとして起きてしまうミス」を防ぐ方法を考え続けてきたことが生きている。
そのひとつが、トイレ休憩だ。休憩の時間が決まっているとその時間にトイレが混むし、そもそも人によって行きたいタイミングは異なる。トイレに行く時間は貴重なリフレッシュにもなるから、管理するようなことはしたくない。「好きなタイミングでお茶を飲んで、午前中に1〜2回はトイレに行ってね」と声をかけている。
とはいえ、集中して作業を続けていると、つい立ち上がるタイミングを逃してしまうこともある。だから田中さんは一緒のスペースで作業しながら周囲の様子に気を配り、長時間座り続けている人がいれば「ねえ、あの製品取りに行ってくれない?」と声をかけることもあるそうだ。
検査する部品の数は、1日に約8万個。たとえば、その中の1個でも不良品を見逃せば8万個すべてを検査し直す必要がある。その費用は見逃した側が負担することになり、さらなるミスを繰り返さないために普段以上の集中力が求められる。だからこそ、集中力が途切れないよう、リフレッシュできる時間を積極的に作る――。長年の経験を積んだからこそ気づいた極意だ。そのようにして信頼を得てきた結果、さまざまな精密機械の検査を請け負うようになり、中でも世界中の自動車に搭載される安全装置のセンサーの多くを同社が検査するまでになった。
6人でスタートした会社は現在パートを含めて14人、年商は3倍以上に増えた。
「何十回でも何百回でも質問して」
子どもの頃からピンセットが大好きで「精密が天職」という田中さんは、検査時の判断力がずば抜けている。でも、この力を他の人に伝えるのは難しい。そこで田中さんは社員やパートに「何十回でも、何百回でも、とにかく質問して」と伝えている。
「最初は本当に、どこまでがOKでどこからがNGなのかがわからないものなんです。一度判断に迷い始めると、1時間でも悩みながらその部品ばかり見てしまいます。でも、質問してくれたら、たった1秒で済むんです。そして、何回も聞くうちに判断力がつく。『念のため、今日もう一度聞いてみよう』というのを繰り返すうちに、自分のものになるんです」
専務の前田さんも「誰かが社長に『これってNGでしょうか?』と聞くと、ほかの人も『私にも見せて』と集まってきてみんなで見るんです。そうやって、判断に迷いやすい事例を共有するから、みんなの“目”が同じレベルになっていくのだと思います」