ハイブランド品、聖地巡礼…二重価格を設定する店も

円安効果に加え、5月は中国の労働節の連休によって主に個人観光客が増えたことも押し上げ要因になったようだ。百貨店向けのインバウンド需要は、コロナ前の2019年比でも132.4%増加した。

品目別にみると、ハンドバッグ、財布、宝飾、時計、化粧品など、比較的価格帯の高い商品を買い求める海外からの来訪者が多い。東京など大都市だけでなく、九州や沖縄などでもインバウンド需要で百貨店の収益は増えた。

2024年版「観光白書」によると、スポーツ観戦やアニメの中に登場した場所をめぐるための消費(コト消費などといわれる)も増えている。それに伴い、交通関連の支出が増加するという波及効果も出ているようだ。

インバウンド需要に対応するため、“二重価格”を設定するケースも増えた。二重価格とは、地方自治体や企業などが訪日外国人向けのモノやサービスの価格を、日本人よりも高くすることをいう。収益性の向上を目指して、今後は海外からの来訪客の増加が期待できる場所を中心に出店する方針の外食企業も出始めた。

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インバウンドは「自動車」に次ぐ重要産業になる

現在の世界経済の環境が続くとすれば、これからも訪日外客数は増加基調で推移する可能性は高い。2024年上期のペースが続くとすると、本年の訪日外客数は3500万人を上回るとの予想もある。それが実現になると、統計開始来で最高だった2019年を上回ることになる。

その場合、訪日客による消費額は8兆円に達しそうだ。主要な輸出品目と比較すると、インバウンド関連の消費額は鉄鋼(2023年の実績は、4.5兆円)、半導体や電子部品(同5.5兆円)を上回り、自動車(同17.3兆円)に次ぐ規模になると予想される。飲食、宿泊、交通などの分野でインバウンド需要に対応するための人手を確保する企業も増えるだろう。

国内の個人消費が盛り上がらない状況下、わが国経済にとって訪日外客数増加の重要性は高まる。政府もそうした認識を持っており、2030年までに訪日外客数6000万人の実現を目指すという。

観光関連分野の持続性を高めるため、政府は海外から地方への動線の整備を進める方針だ。一人当たりの消費額を引き上げるため、高級リゾートホテルなどの誘致政策も進める。