「主要4候補」に集中し、52人は無視
2016年の都知事選はそんなドラマ性あふれる選挙だったことを思い出すと、テレビ報道時間が多かったのは当然のデータだ。だが、それにしても多すぎではないか。
嫌味な見方をすると、盛り上がる話題があるからたくさんの時間をかけるのなら、ネットの問題と言われるアテンションエコノミーにテレビが陥ったとも言える。話題の3候補に集中し、18人もいた他の候補はほとんど扱わなかった。
今回も、小池・蓮舫・石丸・田母神を主要4候補として他の52人の候補は取り上げなかった。選挙が終わってから安野氏を紹介するなら、テレビの選挙報道は適切と言えるのだろうか?
そんな都知事選から1週間ほど経った7月16日、「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」という総務省の有識者会議の「とりまとめ(案)」が出た。この会議の長すぎる名前には、ネットでフェイクニュースや詐欺広告が蔓延する深刻な現象への危機感が込められている。
著名人の名前を騙る詐欺広告は、一時期毎日のように話題になったわかりやすい問題だが、日々私たちが接するニュースや情報を安易に信じられないというのもヘビーな問題だ。
この会議は23年11月にスタートしたが短期間で25回にも及んで開催され、あらゆる分野の関係者、企業、業界団体からヒアリングを受けた。
テレビ・新聞は本当にこのままでいいのか
「とりまとめ(案)」では各ステークホルダーの役割・責務として、「情報伝送プラットフォーム事業者」に対して「情報流通の適正化」など多数の項目が書き込まれていた。詐欺広告の舞台となったFacebookやGoogleなどに役割と責務を自覚してほしいとの強い意志を感じる。
一方、「情報発信側」として「伝統メディア(放送・新聞など)」に対しては「信頼できるコンテンツの発信」が求められると、簡単にまとめられている。この会議を何度か傍聴しながら、この「伝統メディア」は「これまでもちゃんとしてましたがこれからも信頼できる情報を伝えてくださいね」と、あまり問題視しない姿勢を感じていた。
それでいいのかなあと私は懸念を持っていた。ひとつには、マスメディアの「劣化」だ。投票用紙の書き方さえ間違うし、選挙報道では有力候補を決めたら他の候補は扱わず、話題の多い盛り上がる選挙では時間を多く割く。「信頼できるコンテンツの発信」ができているのだろうか。
「信頼」とは、確かな情報を届けることもあるが、頼りにされるか、当てにしてくれるか、もあると思う。正しければ信頼されるかといえばそうでもない。
2024年の都知事選挙は、テレビよりYouTubeを信頼する層が、選挙結果に大きな影響を及ぼした最初の選挙だったのだと私は思う。