企業のトップクラスや著名人も乗っていた

亡くなった乗客は当初、お盆休み前日だけに家族連れやレジャー客が多いと思われたが、後に新聞社やテレビ局が乗客名簿を整理すると、会社の経営者や社長、それに役員、部課長ら企業のトップクラスが150人以上もいることが判明した。企業の種類は銀行、証券、商社、建設業……と多岐にわたっていた。東京と大阪500キロ間をわずか1時間で結ぶ利便性が、彼ら企業戦士に空の便を選択させていたのである。

著名人も乗っていた。歌手の坂本九(43)=本名・大島九、阪神タイガース球団社長で阪神電鉄専務の中埜肇なかのはじむ(63)、グリコ・森永事件で脅迫を受けたハウス食品工業社長の浦上郁夫(48)、大相撲伊勢ケ浜親方(元大関清国)の妻(39)と長男(12)、長女(10)の3人、日本を代表する脳神経学者の大阪大学基礎工学部教授、塚原仲晃(51)らだ。

( )内の年齢はすべて当時のものである。

写真提供=産経新聞
線香を手向け合掌する自衛隊員

エンジンは4基とも正常

「ドーン」という異常音から墜落までの32分間に機体の高度を下げながら少なくとも4回、「操縦不能(アンコントロール)」と管制に連絡している。

それでもコックピットの機長、副操縦士、航空機関士は必死に機体を立て直して羽田空港に戻ろうとがんばった。乗客乗員524人の命が掛かっていた。墜落直前のコックピット内の様子はまさに地獄絵そのものだった。

55分27秒 機長「頭上げろ」
55分34秒 副操縦士「ずっと前から支えてます」
55分42秒 副操縦士「パワー(エンジン出力を上げろ)」

エンジンは4基ともすべて正常に機能していた。

55分43秒 機長「フラップ(高揚力措置の下げ翼)止めるな」

電気モーターがバックアップしているフラップは、油圧システムを喪失しても多少は作動した。

55分43秒 東京APC(羽田空港進入管制所)「現在位置はレーダーで50、いや60マイル、羽田の北西。北せ……、あー、50ノーティカルマイル羽田の北西」

ノーティカルマイルとは海上で使われるカイリ(海里)のことで、航空の世界でマイルといえばこのノーティカルマイルを指す。1ノーティカルマイル=1カイリ=1.852キロの計算となる。