財産に関るため、顧客の精神的余裕が奪われがち 金融業界
特徴
財産や信用、個人情報など、顧客にとって重要なものを取り扱うビジネスであり、それらが損なわれた、あるいは不適切に扱われたと感じたときの顧客のショックは大きくなる。
金融商品を買った顧客が損失をこうむった場合、たとえ事前に法に則ったリスクの説明を受けていたとしても、「そっちが熱心に勧めたから買ったのに……」といった被害感情を抱いてしまうことがある。
それに対して金融機関は簡単に落ち度を認めたり謝罪したりできないため、不満を抱いた顧客のクレームが悪質化しやすい。
対応策
「謝り方を間違えると、後で裁判になったとき、過失の証拠になって損害賠償義務を負うことがあるため、慎重さが求められます。
金融商品で損失を出した顧客からのクレームが発生して、金融機関側に落ち度がない場合、事前に説明や資料交付などをしている事実を顧客と共有したうえで、損失の補填はできないことを丁寧に説明します。このとき『説明が不十分で』『誤解を与えてしまって』など、説明義務違反などの法的責任を認めるような言葉は避けなければいけません。
書面で回答する際も、会社や顧問弁護士のチェックは必ず受けておくべきです」(同)
従業員が直接狙われやすくて危険! 小売業界
特徴
従業員が顧客に直接接客を行うこともあり、顧客からのクレーム件数が非常に多い。クレーム発生の際も従業員が顧客に一対一で向き合うことが多いため、顧客が感情的になりやすく、エスカレートしたときの対応も難しい。最近では従業員の対応をスマホで録画して拡散するようなケースも目立つ。第三者が介入する機会が少ないことから、組織的な対応も後手に回りやすいという問題もある。
対応策
「クレームの原因は『モノ』と『ヒト』の2種類があり、それぞれの原因に応じた思考方法が必要です。商品に欠陥があったというクレームなら、欠陥の有無を確認し、交換する。もし欠陥が事実でなかった場合、あるいは返品・交換を経ても顧客の要求がなおやまない場合は、カスハラ対応に切り替えるという手順でいいでしょう。
接客態度が悪かったなどのヒトに起因するクレームは、より複雑な対応が求められます。『気分を害したから謝罪しろ』のような法的損害が明確でないクレームに対しては『ご気分を害してしまってすみません』などの道義的謝罪は行っても、それ以上の要求に応える義務はありません。カスハラには一人で対応せず、組織的に対応することを企業は従業員に周知する。そして立腹した顧客に従業員の個人情報が漏れないよう、名札をイニシャル表記にするなどの対策も必要です」(同)
証拠が消えるのをいいことにクレーマーが増長 食品業界
特徴
異物混入、腐敗などのクレームが中心。事実確認のためには当該現品の現物調査が必要だが、「食べてしまった」「捨ててしまった」などの理由で調査できない場合も少なくない。従来は性善説に立ち、現品はなくともレシートなど購入した証拠があれば返金・謝罪を行うという対応が多かったが、明らかに過剰な要求を繰り返す悪質なプロクレーマーも存在する。
商品の特性として、味覚や安心感といった顧客の主観に訴える部分が大きいため、クレーマーの主張を受け入れて弱腰な対応になってしまうことがある。
対応策
「買ってもいないのに商品にクレームをつけ、何らかの代償を受け取ろうとするような事例も珍しくありません。最近では『現物がない場合は代わりの商品は送らない』といったルールを業界のガイドラインとして設ける動きも出てきました。
返金対応の場合は、『現品やレシートの確認を条件とする』『治療費を要求された場合は領収書と診断書の提出を求める』など、合理的なルールの中で毅然とした対応を行っていくことが求められます。道義的謝罪を行いながら話を聞き、その内容が事実であるかどうか、どこまでが事実なのかを確認することも有効でしょう」(同)