東京大学出身者の志願者減少が著しい

これだけ聞くと、公務員ほど恵まれている職業はないと思われるが、ここ数年、志願者の減少が続いている。総合職(大卒程度、教養区分を除く)の申込者は2019年度が1万5435人だったのに対して2023年度は1万2886人と4年で約17%も減少している。逆に合格者数は増えており、倍率は低下した。この傾向は今年度も続き、春の試験でも申込者の減少は止まっていない。

中でも東京大学出身者の志願者減少が著しい。春の総合職試験では1953人が合格したが、このうち東大出身は189人で、2012年に今の試験制度になって以降、過去最少になったというニュースが世の耳目をさらった。2015年の春の試験では合格者の26%を東大出身者が占めていたが今回は9%。2014年度には東大出身の合格者が438人いたが10年で半分以下になった。

それでも東大は合格者数のトップだが、京大の120人に続いて3位には立命館大の84人が入った。東大卒の入省者がほとんどいない省庁も出始めている。

もともと東大は官僚を養成することを目的としてきた大学だ。優秀な卒業生は財務省など中央官庁に進むのがエリートの証だった。ところが完全に国家公務員を選択しなくなっているのだ。

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原因は「人事制度」と「仕事のやりがい」

なぜ、エリートたちは国家公務員を選ばなくなったのだろうか。

圧倒的に大きいのは国家公務員に「安定」を求める若者が減ったことだろう。そもそも1つの職場で定年まで働き通すといった価値観は今の若者の間から消滅している。日本型の雇用システムは、終身雇用・年功序列に象徴されるように、長期にわたって1つの組織にいることを前提に、若いうちは給与が低くても、いずれ辻褄が合うように設計されている。年齢を重ねると共に課長、部長と昇進していき、それに伴って給与も賞与も増える。勤続年数が延びればその分、退職金も増えていく。

ところが、一生涯同じ組織にいる前提が崩れた今、若者たちは将来の報酬よりも現在の報酬に惹きつけられる。東大卒のエリートたちが年功序列の官僚を嫌い、若くても高額の報酬を得られる外資系コンサルティング会社などにこぞって就職するようになったのは、この価値観と人事制度のズレから生じている。

もうひとつ大きいのは、仕事のやりがいの問題だ。外資系に入ると若いうちから権限を与えられ、比較的大きな仕事を任される。今の霞が関で課長になるには25年くらいかかる。官僚の定年が延びた結果、課長や審議官、局長へと出世するのに時間がかかるようになった。その分、下積みの仕事を続ける期間が増え、やりがいを感じられない官僚が増えている。どんなに優秀でも先輩を飛び越えて抜擢されるケースはほとんどなく、いわゆる「年次主義」がはびこっている。抜擢がなければ権限を得るまでに時間がかかる。