なぜ公務員はバッシングの対象になりやすいのか。神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は「行政サービスでは『安心安全』という言葉がよく使われる。本来、公務員は制度を整えて『安全』の提供に専念すべきだが、日本社会では、目に見えない心の満足である『安心』のほうが強く求められている」という――。
渋谷のスクランブル交差点を通過する緊急車両
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休憩すらできない公務員

昨年の今ごろ、あるツイートがSNSをにぎわせた。

【救急隊に食事の時間を!】と掲げた、さいたま市消防局によるもので、「救急隊がコンビニ等で飲食物を購入し食事をする事がありますので、ご理解をお願い致します」と呼びかけた(*1)

このツイートをもとにしたNHKの取材に対し、さいたま市消防局救急課 菅野剛 課長補佐(肩書は当時)は、「今回、市民の方からクレームがあったわけではありません。しかし、救急隊がコンビニなどで買い物をすることについていろいろな意見があると思います」と答えている(*2)

たしかに、直接クレームが寄せられたわけではないのだろう。ただ、この菅野氏がことわっている、「いろいろな意見がある」ところに注目したい。

救急隊だろうと、警察官だろうと、コンビニ等で何かを買ってはいけないわけでも、そのまま駐車場等で食事をしてはいけないわけでも、決してない。

にもかかわらず、制服姿、それも、公務員のそうした姿に対して、「いろいろな意見があると思います」と語らせる。ここに、日本社会における公務員の立場があらわされている。

財政赤字の原因は公務員なのか

公務員は、休憩すら取りにくい、だけではない。

財政赤字の原因・元凶としてやり玉に挙げられている。

東京財団政策研究所が、昨年11月と12月におこなったアンケート調査の結果が興味深い。

国内の経済学者(対象者727人中282人が回答)と1000人の国民にあてた意識調査によれば、財政赤字の原因として、前者は「社会保障費」(72.0%)と「政治の無駄遣い」(41.1%)と答えているのに対して、後者では「政治の無駄遣い」(71.5%)の次に「高い公務員の人件費」(40.4%)が続く。

国民の4割が「高い公務員の人件費」によって財政赤字が引き起こされていると考えているのに比べて、経済学者でこれを要因だと答えた割合は、わずか1.7%にすぎない。ほぼ誤差の範囲といえよう。

東京財団政策研究所で、この調査を実施した加藤創太・研究主幹は、「無駄遣いの抑制や公務員の人件費削減などの歳出削減により、財政赤字問題には対応できると考えている可能性がある」と述べる(*3)

「政治の無駄遣い」については、経済学者と、それ以外の国民とのあいだで、そこまで隔たりがないだけに、「高い公務員の人件費」をめぐる意識の違いは、あまりにも大きい。

専門的な知識の有無だけではないだろう。

それ以上に、国民のあいだに「高い公務員の人件費」は、まだまだ削れる、いや、削らなければならない、とでも言いたげな、怒り、もしくは、妬みが渦巻いているのではないか。