6万5000人の従業員のうち5万人がエンジニア

TSMCの成功はモリス・チャンの企業統治とリーダーシップに負うところが大きいのは確かだが、私は常々、TSMCの日常的な企業統治においては、優れたエンジニアによって構成されるチームの功績を無視することはできないと考えている。TSMCの6万5000人の従業員のうち、5万人がエンジニアで、修士と博士がその9割を占めている。この集団がTSMCの中核であり、台湾半導体の「シリコンの盾(シリコン・シールド)」を構成するためのカギとなる力である。

TSMCにはエンジニアガバナンス文化が息づいている。社内で一番地位が高いのもエンジニアだし、他社であれば巨額の利益に関わる設備購入のようなことも含め、TSMCでは「設備購入選定委員会(NTSC/New Tool Selection Committee)」が最終決定している。NTSCはTSMCのマネージャー以上の幹部で構成されており、評価報告と判断材料は各工場のテクニカルエンジニアが提供する。

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受託製造でもコア技術を自社で握る

TSMCが「ファウンドリー(受託製造)」産業のリーディングカンパニーであることは周知の事実だが、いっぽうでTSMCのどこがすごいのか、下層にいる受託業者じゃないかといった揶揄も、長年の取材生活のなかで少なからず耳にしている。

台湾の受託メーカーの多くは、研究開発力や技術力が顧客より劣っている。コア技術に対し、国際的なメーカーは台湾の受託業者よりもはるかに優れた開発チームを抱えているため、その気になればサプライヤーをいつでも取り替えて、別の業者を育てることができる。

だが、TSMCは違う。TSMCはコア技術を自社で握っている。サムスンやインテルといった競合他社は、そもそも作れないか、作れたとしても良品率が低いため、TSMCに製造委託するしかない状態である。

アップルやエヌビディア(主要製品はGPU(画像処理専用プロセッサ)で、高性能ゲームやビットコインの分野で需要が拡大)、AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)(主要製品はコンピューター、グラフィックス製品など)を始めとする大口顧客には、そもそもウエハーの製造に必要な設備も技術もないためTSMCに供給してもらうしかない。この点が、TSMCのファウンドリーの最大の強みである。