半導体産業の参入障壁が高い理由

2つ目の要素は、各産業をさらに細かくカテゴライズして、各々を派生産業として独立させた分業制だ。そこでは各社が各自の分野で自分の強みを発揮することに専念しながら、完成品を構成するサブシステムや部品を1社が1つずつ攻略している。1台のパソコンから、接続線や冷却ファン、RAID、監視装置といったパーツを個々に製造する産業が数百種も派生し、そしてその一つひとつを製造するためにおびただしい数のメーカーが生まれて、台湾をパソコン王国にしている。

3つ目は、台湾では各派生産業のなかで激しい国内競争が起きていることだ。まずは台湾国内で競争力を磨いておかなければ、国際社会の舞台に立つこともできない。

前述の3点のほか半導体産業には、他の情報エレクトロニクス産業にはない、産業構造が複雑で、精密性と難易度が高いという特徴がある。製造工程が数百に上るうえ、半導体産業が資本集約型産業であると同時に知識集約型産業でもあるためだ。巨額の資金と長期的な投資が不可欠になる。

昔のノートパソコンや携帯電話のように新製品を次々と発売し、薄利多売で稼ぐメーカーが、スピードと臨機応変な対応とマネジメントによって懸命に利益をひねり出してきたのとは違い、半導体メーカーはそれよりも研究開発と先行技術、そして長期的な努力に負うところが大きい。これらの特徴が半導体産業の参入障壁を高くしている。

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台湾政府の出資と手厚い支援を受けてきた

モリス・チャン(張忠謀)は1985年に米国から台湾に渡り、台湾政府の招聘によって工研院(工業技術研究院:中華民国(台湾)経済部が設立した財団法人で科学技術の発展を目的とした重要拠点)院長に就任した。TSMCは国営企業ではない。だがモリス・チャンが1987年にTSMCを創業したときに台湾政府が投資していたのは確かだ。TSMCの設立時の資金の48.3%は政府が拠出し、27.5%はフィリップス、残りの24.2%が他の民間企業だった。しかもTSMCの初期の中核メンバーの多くは工研院から移籍してきた面々だった。

ほかにも政府は、産業の発展期には投資や税金面での優遇措置や支援策も打ち出した。こうした点を考えると、TSMCは台湾政府が出資して設立し、手厚く支援した企業と言っても決して間違いではないだろう。