韓国が「因縁の歴史」のあるベトナムを選んだ理由

韓国はベトナムを選んだ。その第一の理由は、ベトナムに華僑がいなかったためである。インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピンは、華僑が経済の実権を握っている。そこに韓国人が入り込むことは容易ではない。タイにおける華僑の影響力はそれらの国に比べて弱いが、既に日本が進出している。その結果として、韓国はベトナムを選んだ。

韓国はベトナムを選んだが、ベトナム人が韓国人に良い印象をもっているわけではない。筆者の経験であるが、現在のハノイには韓国人が多いので、飲食店などで「韓国人?」と聞かれることがある。自分は日本人だと答えると、概ね好意的な態度を示してくれる。つたない英語で「韓国人は嫌いだが、日本人は好きだ」などと言われることもある。

その理由は多岐にわたるようだ。韓国人の振る舞いが中国人に似ているからと言う人もいる。そしてベトナム戦争の記憶に行き着く。

ベトナム戦争時に韓国は、米国の要請に応じてベトナムに派兵した。韓国兵は南ベトナムの村で何度か「虐殺事件」を引き起こしている。また、韓国兵とベトナム女性の間にできた子供を韓国軍が撤兵する際に置き去りにしてしまい、面倒を見なかったとも言われる。その子供たちはライダイハンと呼ばれて、差別と貧困に苦しんだ。このようなベトナム戦争時における韓国人の振る舞いは、ベトナム人の心の中に残っている。

しかし、ベトナムはこの問題に対して韓国を非難したり賠償を請求したりしていない。ベトナムの歴史は戦争の歴史であった。それはフランスや米国との戦いだけではない。本書(『日本人の知らないベトナムの真実』)に書いたように中国と何度も戦ってきた。その結果として、戦争になればどんなことが起きるのかよく知っている。

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サムスンの巨額投資で貿易収支が黒字化

1979年の中越戦争において、勝利することができなかった中国軍が国境付近でベトナム人の村を襲って虐殺事件を起こしたことは既に述べた。ベトナム人は戦争に虐殺は付きものだという感覚を持っている。

またライダイハンの問題も、軍隊は若者で構成されるから軍隊が進駐してくればそのようなことは必ず起きる。悲劇であるが、それに対していちいち補償を要求すべきものでもないと考えているようだ。実際、ベトナム政府は韓国政府に謝罪も賠償も求めていない。

あるベトナム人と話していた時に、日本と韓国の間の慰安婦問題が話題になったが、彼は、韓国人がベトナム戦争中に自分たちが行ったことを棚に上げて日本を攻撃していることに驚いていた。

このようにベトナム人は韓国人をよく思ってはいない。しかし、サムスンが巨額の投資を行い、ハノイの北に工場を造ってくれたことには感謝している。その感謝は庶民よりも政府関係者の間で強いようだ。それはサムスンの工場で作られる携帯電話を輸出したことによって、貿易収支が黒字化したからだ。