人口に比べて医大の数が圧倒的に少ない

「ウェルビーイング」の本来の意味は「健康的な存在」である。となれば、幸福度がより高いのが浜松市であり、熱海市の幸福度は低いということになる。

この数値は熱海市だけでなく、県東部、伊豆地域全体で、浜松市の平均寿命を大きく下回っている。

沼津市は男80.6歳、女86.8歳、富士市は男80.9歳、女87.5歳、三島市は男81.4歳、女87.1歳、富士宮市は男81.3歳、女87.2歳、東伊豆町は男80.8歳、女86.9歳――となっている。

つまり、県東部、伊豆地域は浜松市よりも幸福度が低いことになる。

どうしてこのような結果が生じたのか?

ゼロ歳児がどのくらい長生きするのかという平均寿命は、保健福祉水準を総合的に示す指標である。

つまり、それだけ県東部、伊豆地域の保健福祉水準が浜松市に比べて劣るというわけである。病院、医師、看護師などの医療体制が劣っていることが、平均寿命を見れば、ひと目でわかるのだ。

人口約360万人の静岡県には、医大が浜松医科大学の1校しかない。隣県の神奈川県、愛知県には4医科大学あり、富士山を県境で接する人口80万人の山梨県にも1医科大学がある。

同大学提供
静岡県唯一の浜松医科大学と付属病院

浜松医科大学は、いまから50年前、1974年に、静岡県唯一の医科大学として浜松市に開学した。鈴木知事が市長時代に誘致したわけではない。そのずっと以前から、浜松市の医療体制を支える重要な公共インフラである。

浜松医科大学病院を中心に、聖隷浜松病院、聖隷三方原病院、遠州病院、県西部医療センターの5大病院が急性期医療を担い、日赤浜松病院、浜松労災病院なども点在する。浜松地域の医療体制はずば抜けて充実している。だから、平均寿命もずば抜けて高いのだ。

平均寿命だけでなく、いちばん医療事情の乏しい県東部地域への「医科大学誘致」が最重要課題であることは県職員ならば誰もが承知している。

劣勢挽回のために「医大誘致」を公約にした

現在、静岡県の10万人当たりの医師数は230人で、全国40番目前後とひどい医師不足である。

しかし、医師数も地域偏在で、浜松市の医師数は多く、県東部、伊豆地域が少ないという「西高東低」である。

知事選で、鈴木知事は、静岡市を中心とした県中部地域、熱海、沼津、三島など県東部、伊豆地域で、元副知事だった自民党推薦候補に後れを取った。

劣勢を挽回するために、県東部地域の選挙演説で「医大誘致」の公約を掲げた。一部の住民たちは貧しい医療事情を何とかしてくれるという政治家に期待した。

それなのに、初当選を果たした鈴木知事は就任早々の会見で、知事選で唱えた「医大誘致」の“公約”を破棄してしまった。

それで怒らないほうがどうかしている。生命に関わるからだ。このままでは未来永劫、県東部、伊豆地域の平均寿命は低いままである。

浜松市は「幸福度日本一」を誇っているかもしれないが、静岡県全体を見れば、「幸福度日本一」など夢のまた夢である。