「スロー」な時代感覚と「紅茶」がマッチした?
しかし「なぜ今、ティーチェーン?」という疑問は残る。それぞれのチェーンは独自の「稼ぎ方」を見出してはいるが、それはもっと前でも構築できたはずだ。ティーを流行らせる、なにか別の要因があるはずなのだ。ひとつは、高まり続ける美容・健康意識の影響だ。紅茶には抗酸化作用やリラックス効果などがあることが報告されている。だが、それ以外にも理由はある。
ここで考えてみたいのは、特にコロナ禍以後の時代を象徴するような消費の「空気感」である。私は最近、「1000円程度の比較的安めの値段で時間をあまり気にせずだらだらとくつろげることのできる空間」に対する需要を「せんだら需要」と呼んでいる。カフェやサウナ、シーシャ(中東発祥の水たばこで、水のフィルターを通したフレーバー付きの煙を楽しむ嗜好品)など、時間をゆっくりと過ごせる場所に対するニーズが急上昇している。
ここでは詳述は避けるが、筆者が客にインタビューしたり、近年盛り上がりを見せている店舗などを取材したりすると、さらなる伸びしろを肌で実感するのだ。
とりわけその空気が顕著なのがカフェだ。ここ数年、都内を中心とするチェーンカフェの人の多さには目を見張るものがある。(https://jisin.jp/domestic/2322583/)
少し前には、「ファスト」という言葉が流行語のようにもてはやされ「ファスト教養」や「ファスト映画」などという言葉も誕生したが、こうした「ファスト」が持てはやされることに対するある種の反動で、「スロー」に対するニーズが増していると感じられるのだ。
そんな中、カフェイン摂取して眠気覚ましにもなるコーヒーが、どこかファストなエナジードリンクのように受け止められることもあるのに比べ、ティーは優雅にゆっくりとくつろぐことができ、おしゃべりなどを楽しめると評価を得ているのではないか。
こうした流れには、コロナ禍を背景に少しずつ浸透してきた「ヌン活」の影響も見過ごせない。ヌン活はホテルのラウンジなどでの本格的なアフタヌーンティーを指すが、これだと1万円近くかかることもある一方、チェーンカフェなら1000円もあれば済む(https://toyokeizai.net/articles/-/459425)。そんなわけでティーの持つ優雅さを手軽に楽しめるティーチェーンの認知度がさらに増したのだ。実際、ティーを売りにしているチェーンカフェにいくと、店舗デザインがゆったりとした配置になっており、女性たちが話に花を咲かせているのだ。
ただ、注目のティーチェーンとはいえ、その店舗数は珈琲チェーンには及ばない。本当に人々のライフスタイルに根付くかどうかは未知数だが、「チェーン」がファストなものであるという常識に反省が促されつつある現在、ティーが勢力を広げる余地は大きいと思うのだ。