田村容疑者とAの共通点は多く見つかる

「Aの中一か中二か、どちらか忘れてしまいましたが、春休みのときに、家の軒下の空気孔から、家では誰も使っていないはずの家庭用の斧が出てきました」

「中学二年の十一月には、レンタルビデオ店でホラービデオを万引きし、警察に補導されたことがありました」

「鑑定書の中で、あの子は自分の空想で作りあげた友達を語り、その姿を描いていました。

『エグリちゃん』と名付けた身長四十五センチぐらいの女の子。
その絵は気持ち悪くなるようなグロテスクなものでした。

頭から脳がはみ出て、目玉も飛び出している醜い顔で、エグリちゃんはお腹が空くと自分の腕を食べてしまうそうです。

『ガルボス』という空想上の犬(絵はない)も友達で、『僕が暴力をふるうのは「ガルボス」の凶暴さのせい』と、話していました」

「精神鑑定の結果、精神や脳には異常はない。あの子は一体、何者なんでしょうか?」

同級生の喉元に刃物を突きつける。人間の脳に見立てた粘土に剃刀を突き立てる。ホラー好き。空想の人間と対話する。田村瑠奈容疑者と少年Aの共通点は多く見つかる。

ましてや瑠奈の父親は精神科医である。このままでは娘は大変なことをしでかすと見通していたのではないか。

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狂気に気づいた時点で手が打てるとは限らない

しかし、娘の暴走を止めるどころか、犯行に加担してしまったのだ。母親は、自分は傍観者のように証言しているようだが、そうではあるまい。

3人だけの異常だが親密な世界をつくり、その中だけで生きていけるのなら、それでいいではないか。他人に迷惑はかけていないのだから。そう考えたのだろうか。

しかし、娘はその世界からハミ出し、自分の欲望のハケ口を外に求め始めた。その先に何があるのかをわかっていたはずだろうが、両親はその現実を直視することが怖かったのではないか。

そして娘の狂気が暴走してしまった。もはや両親にはそれを止める体力も気力も残っていなかったのだろう。

だからといって、両親の罪が軽いというわけではない。少年Aの母親も、子どもの狂気に気付いた時、何らかの手を打てたのではなかったのか。世の多くの親はそう考えるに違いない。だが、果たしてそうだろうか。

少年Aの母親は事件が起きた後もこうつづっている。

「私の知っていたAは、親バカかもしれませんが、人に必要以上に気を遣うなど、繊細でやさしいところのある子でした。すぐ人を信じて傷つきやすく、臆病で純粋すぎる。根がバカ正直なので、学校でも先生に思ったことをそのまま言うなど、不器用で心配になる部分があるほどでした」