「犯人」を捕まえても意味がない

――不正となると犯人捜しや現場の吊るし上げに終始して、根本的な問題の解決にならないことも多々あります。

【中原】根本的な問題は、本書で紹介した「構造的な要因」や、すでに対立している基準などにあるのですが、あまりそこがクローズアップされないまま終わってしまう印象があります。

「この人が犯人です!」というのはわかりやすい構図ではありますが、以前から私はこうした不正のとらえ方に疑問を持っていました。現場にいる「誰か」を探し出して、その人物が退職したら不正がなくなるのかと言えば、多くの場合はそうではないはずです。

悪事をこっそり働こうと考えている人が仮に組織内にいたとしても、現在の日本の内部統制制度の拡充や監査システムの程度を考えると、実際にはそう簡単ではありません。

一方、組織の中で正統的であったり合理的であったりする「正しさ」を、不正として指摘される前に見つけ出すのは困難です。組織内では誰も不正だとは気づかない「閉じられた正しさ」になってしまいがちだからです。

不正が起きると、情報公開が必要だという話になりがちですが、どんな情報でもだせるわけではないですから、内部でいかに健全な経営ができるようにするかを考えなければなりません。監査で言えば、「閉鎖的だからこそ開かれた場にできる」ことの良さを生かしたチェックを行わなければならないでしょう。

社外取締役の存在意義

【中原】その意味では、内部監査だけでなく社外取締役の役割も大きいと思います。社外取はまさに内部のロジックとは別の観点から、「組織としての正しさが閉じられた正しさになっていないか」を判断すべき立場です。

会社によっては「社外取は任命したけれど、あんまりつべこべ言われたくない」という取締役や幹部もいるでしょうが、社外取は心を鬼にして、少しでもおかしいと思ったことは指摘していかなければ、真の企業の健全化は図れません。単に「社外取を設置すればいい」というのではなく、実際に機能するものにしていく必要があります。

不正や不祥事が起きると企業は第三者委員会に調査を依頼しますが、本来は有事になってから対処するのではなく、平時から第三者的視点が働いているのがベストです。

――幹部に女性を増やす、さまざまな経歴を持つ人を登用するなどの多様性の担保も必要ですか。

【中原】そうですね。属性の多様化は視点の多様化につながります。単に性別の話だけではなく、特にメーカーの場合は製造部門出身者を経営サイドに登用するなどして、「なぜそういうことが起きるのか(起きうるのか)」を現場の状況を知る立場から説明できることが重要になります。