KDDI社長の会見が称賛されたワケ

【中原】本書では、KDDIの高橋誠社長が大規模な通信障害が発生した際に会見で詳細に経緯を説明して賞賛された例を挙げましたが、技術畑出身だったために、「なぜ障害が起きたのか」を理解し、言語化されていました。

 今回のトヨタの記者会見に限らず、トップが不正の内実に語るということはとても大事なことだと思います。なぜなら、不正の内実を語るというのは現場を理解していなければ出来ないことだからです。不正の内実を語る時に、日々どれだけ現場に向き合っているかが問われるからです。

トヨタの場合もそうですが、社内的に「正しい」と思ってやったことが、時に結果的に「不正」になるとすると、誰にとっても、どんな組織でも他人ごとではありません。それは組織不正がどんな組織でも起こりうるからです。

本書では東芝の不正会計や警視庁公安部の軍事転用不正の冤罪事件についても取り上げましたが、いずれも初めから「不正に手を染めてやろう」と思って始めたことではないはずです。

「正しい」と思ってやっていたはずなのに、どうしてこんなことになったのかと、当事者が一番驚いているかもしれません。むしろ、「正しい」からこそ、大きな不正に繋がりやすいと言うべきです。

こうした事態を防ぐには、一つには先にも言った監査役や社外取締の役割も大きいのですが、そのほかにも内部通報制度の拡充などが必要でしょう。

すでに制度自体はありますが、より機能するように、例えば現場の情報を知り尽くしていて情報提供をしてくれるような人がいれば、現場の状況がわかるだけでなく「正しさ」が閉鎖的なものになりつつあることに気付く可能性が高まります。

絶対に正しいと思うことほど、絶対に間違う可能性につながる

【中原】また、今回の国交省とトヨタのように「正しさ」どうしが対立や緊張関係にある場合、お互いに自分たちの考える正統性や合理性をすり合わせて、「どこに差分があるのか」を、できれば前もって確認する作業ができればいいなと思っています。

中原翔『組織不正はいつも正しい』(光文社新書)
中原翔『組織不正はいつも正しい』(光文社新書)

――個人としても、自分が抱いている「正しさ」に没入せず、客観視する視点が必要ですね。

【中原】「正しさ」は怖いです。組織内に単一的で固定的な「正しさ」が浸透すると、間違っていてもその方向に全力で突き進んでいくことになります。「正しいのだ」と信じていれば、なおのことです。

あとがきにも書きましたが、「絶対に正しいと思うことほど、絶対に間違う可能性につながっている」。これは企業組織だけでなく、行政、国でも言えることですし、個人にとっても必要な視点ではないでしょうか。

(インタビュー・構成=ライター・梶原麻衣子)
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