国交省の「正しさ」とトヨタの「正しさ」
【中原】トヨタの認証不正についてはこれから本格的な調査が行われるため、暫定的な見解にはなりますが、国交省の考える「正しさ」とトヨタ側の考える「正しさ」の対立で考えると、両者の言い分がわかってきます。
国交省は、これまで国際基準(国連基準)への対応を図るために道路運送車両法を改正するなど、自動車の国際流通を加速させるべく取り組んでいました。その一方で、トヨタは今回問題となった認証試験において、少なからず北米基準を参照していました。
例えば、車の後ろから衝突された場合に燃料漏れが起きるかどうかを確認する試験で、国交省の基準では1100キロの重さの衝突で実施しなければならないところ、トヨタは北米基準の1800キロでテストをしていたと報道されています。
これが「より厳しい基準」での試験です。しかし国交省としてはあくまでも1100キロで試験を行うよう定めているので、「より厳しい基準」をクリアしていたとしても、結果的に「不正」と判断されてしまうのです。
つまり、国交省は「国際基準で試験を行うべきである」という「正しさ(正統性)」を主張しているのに対し、トヨタはアメリカにも多く車を輸出しているので、試験効率等を考えて北米基準を採用し、国際基準もクリアするのだから問題ないだろう、という「正しさ(合理性)」で試験を行ってきたわけです。
結果、双方の正しさが対立し、その「差分」が不正になったということになります。
豊田章男会長の発言の真意
――トヨタ社内からは「エンジニアとしては合理性を追及した結果だ」との声もありました。
【中原】こうした「正しさ」が対立したり緊張関係にあると、その「差異」「差分」が現れやすくなり、組織不正が顕在化することになります。
ただし、本来であれば、こうした差分が見つかることは大事なことであるため、「では今後どうすればいいか」を前向きに話し合っていくべきです。
今回のケースは10年ほど前の試験結果から「不正」が発覚したという話ですが、こうしたチェックより短い間隔で行っていけば不正の規模もそこまで拡大しないのではないでしょうか。そうすることで、「正しさ」どうしのギャップも小さく抑えられますし、「差分」をどう考えるかを検討しやすくもなります。
――トヨタ自動車の会長である豊田章男氏が、自動車企業で同様の不正が発覚していたことを背景に「『ブルータス、お前もか』と思った」とか「不正撲滅は無理だと思う」と発言して世間を驚かせました。
【中原】特に後者の発言の真意は、先にも述べた「差分」をなくすというのは難しい、ということではないかと思います。
豊田会長は、同じ会見で「間違いが起こったときに立ち止まること」や「すぐに直すサイクルを回していくことが大切である」とも述べているので、この点は間違いないと思います。
もちろん、「不正撲滅は無理だと思う」と、トップが語ってしまうことで不正を容認する姿勢になりかねない、とも言えます。しかし、今回の発言はそういう姿勢ではないと感じられ、あくまで「限りなく不正をなくしていかなければならないが、それをゼロにするのは難しい」と本音を吐露したのだと思います。
それはまさに「差分」だからであり、大元をたどればトヨタの考える「正しさ」と国交省の考える「正しさ」の対立や緊張から生じるものだからです。あるいは、豊田会長が語ったように、多くの部署や人を介してなされるものが属人的になりすぎてしまったこともあります。