「プロセス」を評価する基準とは

第1は、経営チームの協働の産物としての「結果」である。利益がそのもっとも確かな数字である。しかし、利益は最終的な指標で多様な要因によって影響される。市場シェア、売り上げ成長率などの成果指標も同じである。これらの指標が無意味だとは言わないが、結果の評価指標は経営チームの協働の結果をより直接的に評価できるものであることが望ましい。第三者機関によって顧客満足が測定されている業界では、顧客満足は重要な結果指標となりうるだろう。同じく従業員満足も重要な指標となりうる。株価も、株主の満足を知る重要な手がかりである。

さらに直接的な評価の手がかりを得ようとすると、経営者チームの行動を見なければならない。これが第2の評価基準、「プロセス」である。プロセスは、経営者チームの行動そのものであるから、トップマネジメントの行動を直接に観察できる立場にある身近な人々しか評価できない。アメリカでは、外部のコンサルティング会社に依頼して、経営者チームの行動をお互いに評価しあった結果を集計し、経営者チームのメンバーにフィードバックしている会社がある。

具体的なプロセス基準として、挑戦的な中期目標が提示されているか否か、この目標の達成につながる斬新なビジョンや効果的な戦略が示されているか、また戦略が中期計画に落とし込まれているか、短期目標の優先順位は明確になっているか、社外取締役への情報提供は適切か、取締役会の議題選択は適切か、マイナス情報が遅延なく開示されているかなどの評価基準である。

図を拡大
コーポレートガバナンスの具体的評価基準

第3は、「経営チームの質」にかかわる評価基準である。十分な全般経営能力を持つ人々がチームのメンバーとして選ばれているかどうか、目標を完遂しようとする強いコミットメントがあるかどうか、経営チームの能力が高まっているかどうか、将来のトップ候補が育成されているか、トップのリーダーシップは発揮されているか、トップのパワーを牽制する手段は準備されているか、これらは具体的な指標として定量化は難しいが、取締役・執行役員・部長の人数や平均年齢、年齢分布、出身部門の多様性、平均在職年数などの指標をもとに総合的に判断するといろいろなことが明らかになるだろう。

このようにして具体的な評価基準をあげていくと、そのいくつかは「日本経営品質賞」のアセスメント基準と似ていることに気付く。もしそうだとすると、日本経営品質賞のアセスメントを受けるというのも、ガバナンスの重要な手段となるだろう。経営者チーム自らが、アセスメントを行うという方法も効果的かもしれない。経営品質賞は、トップから現場までの経営全般の評価のための基準である。コーポレートガバナンスのアセスメントのためには、そのなかからトップレベルにかかわるものを選ぶとともに新たな基準を加えるという工夫が必要である。法律論と同じように形式論レベルの議論に終始していたら、コーポレートガバナンスの進化は図れない。

日本のコーポレートガバナンス改革は、法律(会社法、金融商品取引法)の改正が先行してしまった。このような改革方法がもたらした不幸な結末は、多くの企業でコーポレートガバナンスの問題がコンプライアンスの問題としてとらえられてしまったことである。よい経営を担保するための制度と慣行だという基本が忘れられてしまった。そのために、法律に合わせて形を整えるのがコーポレートガバナンスであるという認識が広まってしまった。そろそろこの認識を改める時期が来ている。

関連記事
不祥事対策の会社法改正に2つの落とし穴
大王製紙、オリンパス……社外取締役は本当に必要か
企業の命運を左右する「パッションのマネジメント」とは
欧米式にも欠点あり。それでも「社外取締役」が必要な理由 -オリックス会長 宮内義彦氏