ダイハツ→スズキにユーザーが流れたワケ

12月20日に前代未聞の全車出荷停止を発表したダイハツ。以来、販売店では在庫は売っていたはずですが、新車が入らなくなり、販売は激減しました。

例えば24年1月、ダイハツで人気ナンバーワンのタントは4849台と辛うじて8位をキープしましが2月は1963台で12位。それ以外のミラ、ムーヴ、タフトは推して知るべしです。それまで順調に売れていたダイハツ乗用車は、ここ半年間、ほぼ新車市場から姿を消していたのです。

一方、ダイハツ車が買えなくなった潜在的な新規軽ユーザーはどこに行くのか?

もちろん家庭用なら買い控えもあり得ますが、軽は業務用だったり年度末の買い換えも多い商品です。行き場を失った客はどこに行くのか。

それは間違いなくスズキなのです。

確かにダイハツとスズキで価格設定だったり、商品構成が特に似通っていたりすることはあります。しかし、いまやホンダはもちろん、日産&三菱の軽ラインナップもある程度揃っています。ではなぜ、ほぼスズキに限ってなのか。

最大の違いはダイハツもスズキも昔から販売台数の半分かそれ以上を「業販」していることです。業販とは正規のメーカーお抱え大型ディーラーではなく、街の自動車屋や修理店、時にバイクショップなどで新車を売る販売形態です。特に大都市ではなく、郊外に多いやり方です。

両ブランドとも業販が多く、しかもダイハツを取り扱っている店で、スズキも取り扱っているケースは決して少なくないのです。

「おい、タント買えなくなったじゃないか! なに買えばいいんだよ?」と言われた業販店セールスがこう言うのは目に見えています。

「いやいや社長、ちょうどスズキ・スペーシアがありますから。しかも3代目が出たばかりだからモノはフレッシュでナイスタイミング!」

事実、タントは昨12月には1万1000台も売れていました。その半分がスペーシアに流れたと仮定しても、成功は火を見るより明らか。

N-BOXはそのほとんどが正規ディーラーで売られているので、業販店からのプッシュアップは見込めません。加えて、前述のおしゃれ路線から来るお客のとりこぼし。

この2つの要因が重なっての大逆転劇なのです。商品戦略の違いだけで、スペーシアの販売数4割アップは正直説明できません。

激化する新軽スーパーハイト国民車バトル

もちろん3代目N-BOXは前述の通り、商品として軽トップクラスの質感や走りを変わらず備えています。価格も一見高くなりましたし、一部LEDフォグランプを省くなどの物足りなさも見られました。ただし、ベースグレードから電動スライドドアを標準設定し、カーテンエアバッグを付けるなど、ちゃんと中身を見れば納得できる部分もあるのです。

その当たりをちゃんと説明し、新型の味の良さを体感して頂ければ、まだまだN-BOXは安泰で6月以降のトップ返り咲きはあり得るでしょう。

しかし、一部3代目のもったいない設定は事実であり、個人的にはN-BOXカスタムに、ちょっとド派手な顔つきや、わかりやすい魅力を付けて欲しいところ。

思い切って後付けリアサーキュレーターやUSB、リーズナブルなナビ設定パッケージを追加するなどはありかもしれません。

さらに最後の奥の手たる「N-BOXギア」であり「N-BOXクロスター」の追加! つまりSUV版を作れば相当な起爆剤になるはず。

いよいよ激化する新軽スーパーハイト国民車バトルから目が離せないのです!

関連記事
だからトヨタは「全方位戦略」を貫いた…「富裕層のシンボル」テスラがここにきて大失速しているワケ
アメリカ人も「EVシフトと脱炭素は拙速だった」と気付いた…豊田章男会長の「4年前の予言」に注目が集まるワケ
トヨタは「ハイブリッド車1本で行く」と言ったことはない…日本企業初の「営業利益5兆円」を達成できた本当の理由
「iPhoneの次」はクルマではない…1兆円を投じてきた「アップルカー」の開発中止が報じられた本当の理由
「私は聞いていない」という上司はムダな存在…トヨタ社内に貼ってある「仕事の7つのムダ」のすさまじさ【2022編集部セレクション】