それに対して変化しないのが、自分たちのミッションと価値観である。これは企業理念やミッション・ステートメントに代表される。「私たちの目的は何か?」「私たちにとって最も大切なのは何か?」という問いから導き出される答えである。
変化の激しいニーズと、どうしても譲れない原則に鑑み、その瞬間に最も適切な方向を選択するのが、リーダーが描くビジョンである。「私たちはどこへ行こうとしているのか?」「どのようにすれば、そこに行き着くことができるだろうか?」を考えてビジョンを策定する。そして、そのビジョンを実現するまでの道筋や手段を具体的に示したものが戦略となる。
ここで重要なことは、リーダーの描くビジョンと戦略が、メンバーにとっても意義がある、価値があると納得されることである。
従来の組織では、上から対前年比5%アップ、在庫削減30%などの数値目標が下りてくるだけで、なぜ、その目標を達成しなければいけないかという理由はなかなか見えてこなかった。メンバーにとって深い意義はなく、やらされ感だけが蔓延した。自社のホームページを開けば、高邁な経営理念やビジョンは掲げてあるが、自分たちの仕事とそこを結ぶ説明はほとんどない。現場とのギャップがきわめて大きいのである。
そのような場合も、ビジョン創造型のリーダーは、両者をつなぐパズルのピースを描いていくことになる。自分のボイス、メンバーのボイス、組織のボイスを結び合わせ、1人ひとりの貢献を価値あるものにするのがビジョニングである。
リーダーの描くビジョンがメンバーの共感を得て、意義と価値が認められるには、そのための内容と伝え方を知る必要がある。図11に示したのは一般に「共感しにくいビジョン」と「共感しやすいビジョン」である。
メンバーにとって「会社のために……」は共感しにくく、「お客様のために……」は共感しやすい。また、業務を遂行するメンバーは「役割と責任のみ」が与えられるよりも、なぜ、それが必要かという目的が加わるほうが共感しやすい。