早期発見・早期治療のための検診も重要
こうしたリスク因子を排除しても肺がんになることはありますし、遺伝というリスク因子はなくせません。そのため早期発見・早期治療のための検診も重要な肺がん対策です。肺がん検診は、厚生労働省が推奨している5種類のがん検診の一つ。40歳以上を対象に、年1回の胸部X線検査が推奨されています。50歳以上で喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が600以上の人は喀痰細胞診を併用します。
さらに自費ですが、胸部CT検査による検診なら、より小さな肺がんを発見できる可能性があります。日本人において胸部CT検査が肺がん死亡率を下げるかどうかは証拠不十分で、公的には推奨されていません。しかし海外の複数の研究で、ハイリスク者に対する胸部CT検査が肺がん死亡率を下げることが示されています(※7)。喫煙者、かつて喫煙していた人は胸部CT検査を検討してもいいかもしれません。ただし、検診には一定の割合で偽陽性や過剰診断といった害が生じます。
偽陽性とは、実際にはがんではないのに検査結果が陽性になることです。CTによる肺がん検診において小さな肺結節はよく見つかりますが、ほとんどは肺がんではありません。しかし、結節が見つかったら経過観察や追加検査を受ける必要が生じ、心理的なストレスや放射線被ばくを伴います。さらに気管支鏡や胸腔鏡を用いた生検など、痛みや出血を伴う侵襲的な検査が必要になることもあるのです。
もう一つの過剰診断とは、治療しなくても問題ない病気を診断することです。がんはすべて進行し、命を脅かすと考えられがちですが、無症状で見つかったがんのうち、何割かは進行しないことが知られています。報告によっても差がありますが、肺がん検診ではおおむね20%ぐらいが過剰診断です。
※7 Lung Cancer Screening with Low-Dose CT in Smokers: A Systematic Review and Meta-Analysis
禁煙を始めるのに遅すぎることはない
また肺がん検診で早期発見はできても、肺がん自体を予防することはできません。肺がんによって死亡するリスクを下げるには禁煙の重要性がもっとも高く、検診の重要性は低いといえます。
現在喫煙していても、禁煙すれば、肺がんやそのほかの喫煙に関連する疾患のリスクは下がります。禁煙がもたらす利益については多くの研究がありますが、一例として最新の系統的レビューによると、肺がんによる死亡率は禁煙期間によって異なり、喫煙している人と比べて禁煙期間が10年未満の人の相対リスクは0.64、10〜20年の人は0.33、20年以上の場合は0.16でした(※8)。どれくらいの期間・頻度で喫煙していても、より早期からの、より長期間の禁煙は肺がんによる死亡率の低下と関連しています。
最後に、検診は症状のない人が受けるものです。咳、痰(とくに血痰)、胸の痛みなどの肺がんを疑う症状がある場合は速やかに医療機関を受診しましょう。そして、もしも肺がんと診断されたら主治医とよく相談してください。肺がんの治療法は進歩しています。組織型、進行度や全身状態によって、手術、放射線治療、抗がん剤治療、免疫療法を組み合わせます。みなさんが正確な情報に基づいて最適な判断を下せることを願っています。
※8 Impact of smoking cessation duration on lung cancer mortality: A systematic review and meta-analysis