煙や大気汚染なども肺がんの原因に

そのほかにも調理時に熱せられた油、石炭や木材といった非固形燃料から発生する煙も、肺がんのリスクになります。日本ではあまり関係ないかもしれませんが、調理時にはしっかりと換気扇を回しておきましょう。原則として、煙を吸い込むことは肺がんのリスクになり得るとみなしたほうがいいでしょう。めずらしいところでは、蚊取り線香が肺がんのリスク因子となる可能性があるという研究があります(※4)

屋外の大気汚染も、肺がんのリスク因子であることが知られています。日本における研究では、WHOのガイドライン値を超えたPM2.5(直径2.5µm未満の微小粒子状物質)の曝露が原因の肺がんは、男女ともに10%弱と推計されました(※5)。喫煙への曝露は個人の努力である程度は避けられるのに対し、大気汚染を避けるのは困難です。そのため、公的な規制が必要になります。

また、アスベスト、飲料水中のヒ素、感染症(ヒト免疫不全ウイルス、ヒトパピローマウイルス、結核菌など)、糖尿病などもリスクになります。そして遺伝も肺がんのリスクに関与します。家族に肺がん患者がいる場合、そのリスクは高まる傾向があります。

※4 Exposure to mosquito coil smoke may be a risk factor for lung cancer in Taiwan
※5 国立がん研究センター がん対策研究所「大気汚染(PM2.5)に起因するがんの割合|現在までの成果|日本人におけるがんの原因の寄与度推計(JAPAN PAF プロジェクト)

喫煙者の肺がんリスクを高めるサプリ

一方、食事と肺がんの関係はあまり強くないようです。ただし、赤肉や加工肉、アルコールの摂取、果物・野菜の摂取不足は肺がんのリスクを高める可能性があります。

赤ワイン、ハーブ、スパイスとリブステーキ
写真=iStock.com/karandaev
※写真はイメージです

また、興味深い研究として、βカロテンのサプリメントが喫煙者の肺がんリスクを高めることを示したランダム化比較試験があります(※6)。もともとは食事からβカロテンを多く摂取している人に肺がんが少ないという観察研究があり、βカロテンには強力な抗酸化作用があることから、がん予防に役立つのではないかと期待されて開始された研究です。

フィンランド南西部の約3万人の喫煙者(男性、50~69歳)を、〈βカロテンのサプリメントを摂取する群〉と〈プラセボ(偽薬)を摂取する群〉にランダムに振り分け、5~8年間かけて追跡すると、βカロテンを摂取した群のほうがプラセボ群に比べて肺がん発生率が18%も高いことが示されました。

βカロテンをサプリメントで摂取すると、食事からの摂取と違ってリスクがある理由は明確にはわかっていません。ただ、βカロテンを多く含む食品は他のビタミンやミネラルや食物繊維などの栄養素も含んでおり、単純にβカロテンを補充するサプリメントとは異なります。前回の記事に書きましたが「ギュッと凝縮」されたサプリメントには、通常の食品にない未知のリスクがあるかもしれません。

※6 The effect of vitamin E and beta carotene on the incidence of lung cancer and other cancers in male smokers