「受動喫煙」のリスクにも注意が必要
ただし、受動喫煙には注意が必要です。受動喫煙とは、タバコを吸わない人が他人のタバコの煙を吸い込むことによって健康被害を受けることを指します。さまざまなリスクを承知の上で喫煙することを選択する人がいてもいいのですが、喫煙しない他人に煙を吸わせてリスクを負わせてはいけません。
能動喫煙ほどではないですが、受動喫煙も肺がんのリスクを1.2~1.3倍ほど上げます。また、他のがんや心血管障害といった疾患のリスクも上げます。さらに受動喫煙は、1歳未満の赤ちゃんが突然亡くなる「乳幼児突然死症候群(SIDS)」のリスク増加と関連することがわかっています。なお、自分で吸うよりも受動喫煙のほうが害が大きいという説をときに聞きますが、誤りです。喫煙者自身も副流煙を吸っており、その影響を受けています。
受動喫煙の防止のため、現在の病院はほとんどが施設内禁煙です。個人的には、しっかり分煙できていれば病院に喫煙所があってもよいと考えます。たとえば、タバコを一服することが何よりの楽しみであった方ががんになり、闘病中は努力して禁煙を続けたものの治療の甲斐なく進行して終末期を迎えた場合に「最後に1本でいいからタバコを吸いたい」と希望されたら、その願いを叶えたいと思うのが人情ではないでしょうか。しかし、過去に不十分な分煙やマナーの悪い喫煙者が問題となっていたことを考えると、現状の全面禁煙もやむを得ないかもしれません。
放射性の希ガス・ラドンと高気密住宅
さて、喫煙および受動喫煙をしていなくても、肺がんになることはあります。日本人女性は喫煙率が低く、よって日本人女性の肺がんのうちタバコが原因である割合も低く、先述の研究では20%弱程度です。では、何がリスクになっているのでしょうか。
喫煙ほどの大きな影響はありませんが、ほかにも肺がんのリスク因子はいくつか知られています(※2)。喫煙率はどんどん下がってきていますから、男性においても将来はこうした喫煙以外のリスク因子の重要性が増すと考えられます。
海外でよく問題視されているのが、ラドンです。ラドンは自然界に存在する放射性の希ガスで、土やコンクリートから放出され、気密性の高い屋内で濃縮されます。WHOによると全肺がんの3~14%がラドンによると推計されています(※3)。アメリカ合衆国では喫煙についで肺がんの原因の第2位とされている一方、木造建築が多く建物の気密性も高くなかった日本ではあまりラドンは問題にされていませんでした。高気密住宅が普及している現代では、何らかの対策が必要になるかもしれません。
※2 Lung cancer in never smokers: disease characteristics and risk factors
※3 WHO「Radon」