あいさつ以外にお客を見送れるものはないか

柳井社長が「花を売ろう」と言った背景には、もう一つ、コロナの感染拡大防止の観点から、店内でスタッフによるお客様への声がけがしにくくなったことも関係する。

かつてのユニクロの店舗では、常にスタッフの「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」という声が飛び交っていた。それが、コロナ禍ですっかり聞こえなくなっていたのだ。

常日頃から店舗巡回をしている柳井社長は、そのことをとても寂しく感じ、何かスタッフの挨拶に代わってお客様を歓迎したり、お見送りするようなものがないかと考えていたという。その解決策の一つが、花だったというわけだ。

とはいえ、ユニクロが花を販売するのは2020年4月オープンのUNIQLO PARK横浜ベイサイド店がはじめで、社内のどの部署にも経験がない。そのため店舗の設計を担当した店舗開発チームも、他部署と一緒に花の売り方から考えることになった。

「花の売り方も陳列の仕方も、社内に何もノウハウもないわけです。誰も売った経験がないから、どんな什器が必要なのか、フェイシングはどうするのか、そもそも保管や管理はどうしたらいいのか……。試行錯誤の連続でした」と語るのは、出店開発部店舗設計施工チームの髙木肇子シニアマネージャーだ。

写真=プレジデント社提供
髙木肇子シニアマネージャー

「これはユニクロのソックスと同じなんだ」

髙木氏が入社したのは2012年。ドバイで設計の仕事に従事していたときに旅行先のニューヨークでユニクロSOHO店を訪れた際、機能的な商品が美しく陳列された店舗プレゼンテーションを見て、あらためて日本人であることに誇りを持ったことが入社のきっかけだという。

以来、技術者として常に店舗スタッフの話を聞き、店頭でどういうことをやろうとしているのかを考えて設計してきた。しかし、今回は聞く相手がいない。

「でも、ようやく『これはユニクロのソックスと同じなんだ』ということに気づきました。1つ390円、3つで990円。お客様は、これはいくらだろうとかあれこれ考える必要なく、どれでも好きなものを3つ選んでいただけばいい。

とにかく簡単に選びやすく、手に取りやすく陳列しました。花を入れて持ち帰る袋にはあらかじめ水を入れてありますから、そのままレジに持っていって、持ち帰っていただけます」(髙木氏)