どうしてフラワーコーナーがと驚かれる

ユニクロが花を売っているということを知っている人はまだ少ない。先日もテレビのバラエティ番組で、ある経済評論家の「たとえばいまユニクロでも花を売っていますが……」という発言に、スタジオにいたタレント全員が「え? ユニクロが花ですか?」「知ってた? 私知らなかった」などと驚いていた。

ユニクロは2020年春に、日本で3つのグローバル旗艦店や大型店をオープンさせた。花の販売はこのタイミングからスタートし、ちょうど3年が経過したところだ。

花の保管・管理をするバックルームも含めて、ある程度のスペースを確保できないと花の陳列もできないので、どこの店舗でも販売できるわけではないが、それでも現在全国の21店舗(2024年1月時点)のユニクロにフラワーコーナーがある。

2020年春といえば、コロナ禍1年目で世界中が未知の疫病に恐れおののいている最中である。

そんな中、ユニクロは相次いで3店舗の新店をオープン。しかも4月の「UNIQLO PARK横浜ベイサイド店」(神奈川県横浜市)は売り場面積660坪、同6月の「ユニクロ原宿店」(東京都渋谷区)は同600坪、そして銀座の「UNIQLO TOKYO」(東京都中央区)は実に同1500坪という規模なのである。

そんな巨大店舗を立て続けにオープンさせることに、葛藤はなかったのだろうか。

花屋が街の記憶をつむぐ

「もちろん、その判断はものすごく難しいことでした。2020年のオリンピックイヤーを目指して相当な時間と労力をかけて準備してきたのに、オープン直前にコロナ禍になってしまった。誰も歩いていない原宿や銀座にこんな巨大な店をオープンさせるべきなのか、僕自身にも不安があったし、柳井社長とも何度も何度も話し合いました。

でも同時に、すごく気持ちが塞いでいて、日本中に閉塞感があったので、ユニクロとして社会に何を提供できるのか、少しでも皆様にホッとしていただけるようなことを提供できればということを、毎日話し合っていました」(佐藤氏)

クリエイティブ・ディレクターの佐藤可士和氏
写真=プレジデント社提供
クリエイティブディレクター・佐藤可士和氏

「そんなとき、柳井社長が『花を売ろう』と言い出されました。それも大げさな花束ではなくて、ユニクロらしい値段で、誰もが好きな花を気軽にパッと買って帰れるような、そんなサービスを街に提供しよう、と。

もちろん、はじめに聞いたときは、えっ? 花ですか? と思いました。でも、よくよく考えていくと、何年か前に『LifeWear』というコンセプトも作っていましたから、花もユニクロの服と同じく、人々の生活を豊かにしてくれるものだな、と納得できました。結果的に、店舗に花を置くのはとてもいい効果があったと思っています」(佐藤氏)

実は、いまのUNIQLO TOKYOに改装する前の「マロニエゲート」でも、その前にあった「プランタン銀座」でも、同じ場所に花屋があった。裏通りに面したエントランスの外側にあふれる花々は、道行く人の目を楽しませていた。

「そうなんです。街を歩いていて、この辺にこんな店があったとか、花屋があっていい香りがしたといった、街の記憶みたいなものってありますよね。そういうことも大切にしたいと思いました。だからUNIQLO TOKYOでも、あえて同じ場所にフラワーコーナーを作ったんです」(佐藤氏)