ハチ毒は「毒のカクテル」
どんなハチに刺された場合も、それが初めてで数カ所程度であるならば、「心配はいらない」という。
「痛みや多少の腫れはありますが、保冷剤などで冷やせば、通常、症状は数時間以内に治まります」
ところが、2回以上ハチに刺された場合は症状の出方や対処法がまったく異なる。痛みや腫れなどの局所的な症状のほか、5~15分で全身のかゆみやじんましん、吐き気、嘔吐、腹痛、せき、呼吸困難などの症状が出ることがある。ハチ毒による即時型のアレルギー反応で、「アナフィラキシー症状」と呼ばれる。
アナフィラキシー症状は皮膚症状、消化器症状、呼吸器症状の順で深刻度が増す。最も重篤なグレード4の場合は循環器症状が表れ、血圧が急激に下がり、急に意識がなくなって死亡することもある。これが「アナフィラキシーショック」で、ハチによる死者の大半を占める。
「ハチ毒にはさまざまな成分が含まれており、相手を攻撃するための巧妙な仕組みは『毒のカクテル』と呼ばれています」
痛みやかゆみを起こす活性アミン類(ヒスタミン、セロトニンなど)、発痛ペプチド(キニン類など)のほか、酵素類(ホスホリパーゼ、ヒアルロニダーゼなど)が含まれる。
この酵素類が「抗原(アレルゲン)」と呼ばれる物質で、体内に注入されると、「ハチ毒特異的IgE抗体」がつくられる。そして再びハチに刺されると、毒液の酵素とIgE抗体が結合して即時型アレルギー反応を起こすのだ。
食物アレルギーと同じ薬で対応
ただ、IgE抗体ができるかどうかは、個々の体質によって大きく異なる。
「1回刺されただけではIgE抗体をあまりつくらない人がいます。3回刺されても大丈夫だったけれど、4回目にアナフィラキシー症状が出る人もいる」
IgE抗体のでき方は刺されたハチの種類によっても異なる。オオスズメバチのような大型のハチと小さなクロスズメバチでは、毒液に含まれる酵素の量がまったく違うからだ。
ハチに刺されてからIgE抗体ができるまでに通常2、3週間以上かかる。
「体内にアレルゲンが入ってからそれに対する抵抗性が獲得されるまである程度時間がかかります。なので、ハチに刺されて心配な人は、1カ月以上たってから血液検査をしてハチ毒に対するIgE抗体をチェックすべきです」