日本で最も危険な野生生物はハチだ。毎年15人前後がハチに刺されて亡くなっている。これから秋にかけてハチの活動が活発化する。キャンプやハイキングで訪れる山林だけでなく、庭や公園、街路樹など身近な場所にも危険は潜んでいる。

花にとまるスズメバチ
写真=iStock.com/Wirestock
尾に毒針を持つスズメバチ

「ハチに2回刺されたら死ぬ」という話を聞いたことがある。そう警戒している人も多いのではなかろうか。

「必ずしも死ぬわけではありません。けれども、2回以上、ハチに刺されると危ないのは確かです」

そう話すのは、日本衛生動物学会前会長で兵庫医科大学の皮膚科学教授、夏秋優医師だ。

「2回目に刺されたとき、全身のかゆみや息苦しさを少しでも感じたら、『様子を見よう』では絶対にダメ。ハチに刺されたことを周囲の人に伝えるか、場合によっては、救急車を呼んでください。刺されてから5分ほどで気分が悪くなり、一気に意識を失い、亡くなった人も少なくありません」

本当の原因を語る前に死ぬ

ハチに刺されたときの痛みや腫れなどの症状の重さは、ハチの大きさによってほぼ決まってくる。大きなハチほど毒液の量が多いのだ。

最も恐ろしいとされるのは体長30~40ミリのオオスズメバチだ。クロスズメバチは約12ミリとかなり小さい。ひと口にスズメバチといっても、毒液の量には大きな差がある。これらのスズメバチは都市部より山中や里山に生息することが多く、土の中に巣を作る。

市街地で最もよく目にするセグロアシナガバチは20~25ミリ。人家の近くにも生息するキイロスズメバチやコガタスズメバチよりひとまわり小さいが、生息数が多く、庭木や人家の軒下などに巣を作る。そのため、スズメバチよりもアシナガバチのほうが遭遇する確率が高い。

ただ、一般の人がハチの種類を特定するのは難しいうえ、ハチに刺されて亡くなる場合、多くは十数分から1時間で死にいたるため、その間に情報を聞き出すことは困難だ。

「どのハチに刺されて亡くなったのか、正確なところはわからないことがあるのです」

死亡例の多くは、最も凶悪とされるスズメバチではなく、アシナガバチに刺されたことが原因だと推定されている。