「自作生理用ナプキン」の成功

次のケースもかなり独創的だ。

インド南部タミル・ナードゥ州コインバトールに住むアルナーチャラム・ムルガナンタムという男性は、1990年代末に妻が生理の経血処理にぼろ布や新聞紙を使っていることを知り、ショックを受ける。当時のインドにも生理用ナプキンはあるにはあったが外国製で、とても常用できる値段ではなかったのだ。

ならばと彼が始めたのは、ナプキンを自作することだった。コットンで作った試作品は不評で、生理について男性が語ること自体がタブー視されていたこともあり、妻はじめ家族からもモニター役を拒まれてしまう。

それでも彼は諦めず、既製品に用いられているセルロースが、松の皮に含まれる繊維から抽出できることを突き止めた。さらにセルロース製造のための安価な機械の開発に成功したことで、品質的にも価格的にも納得のいくナプキン製造を軌道に乗せたのだった。この物語は『パッドマン』というタイトルで2018年に映画化され、人気俳優のアクシャイ・クマールが主演したこともあり大ヒットした(日本公開もされた)。愛妻家の工夫が世界のサクセスストーリーとなったのだ。

宇宙開発にもジュガール魂

身近な製品だけでなく、インドの宇宙開発に貢献したジュガールもある。

これも『ミッション・マンガル』(2019年/日本公開2021年)のタイトルで映画化されたのでご存じの読者もいると思うが、2013年の火星無人探査ミッション「マンガルヤーン」に関わるものだ。予算も人員も資材も限られた中で、“崖っぷちチーム”はどうやって探査機を火星まで送るかという難問に直面する。これは映画内のエピソードなので脚色もあるだろうが、スタッフのひとりが自宅で料理中に油の余熱を活用して揚げ物を作ることから、探査機でも少ない燃料で飛ばすことによって軽量化が実現できるというヒントを得たシーンがあった。生活の知恵が宇宙開発の突破口となったわけだ。

写真=Manjunath Kiran/AFP/時事通信フォト
2014年9月24日、インド初の無人火星探査機「マンガルヤーン」が火星の周回軌道に到達し、喜ぶインド宇宙研究機関(ISRO)の職員(インド・バンガロール)

インドの宇宙開発といえば、2023年8月に無人探査機「チャンドラヤーン3」が月面着陸に成功したことも記憶に新しい。旧ソ連、アメリカ、中国に次いで4カ国め、月の南極に着陸したのは世界初という偉業だが、注目すべきは7500万ドルというコストの低さだ。当時、「ハリウッドで宇宙モノの映画を製作するときの費用より安い」とよく言われたものだ。宇宙開発と言えば巨額の予算が当然視されるが、簡素化を追求する「インドらしさ」が発揮されたケースと言えるだろう。