無党派層はリベラルから保守寄りにシフトした

2012年に発足した第二次内閣以降の安倍政権は、「アベノミクス」で経済を活性化させ、民主党のお株を奪うような手厚い少子化・子育て対策を推進した。外交面では、集団的自衛権の限定行使を可能にする安全保障関連法などにより日米同盟をより強固にする一方、東アジアの隣国である中国、韓国とは歴史問題の道義的責任から妥協を繰り返す、いわゆる「謝罪外交」を脱し、対等な関係を築いたことで、自民党一強体制を確立した。

1970~80年代に「中間層」を増やした自民党政権の政策により、社会党支持層が減り、無党派層が増えたことに触れたが、安倍政権は、無党派層をリベラルから保守寄りにシフトさせたと言えよう。

旧民主党陣営は、マニフェスト選挙に代わる武器を見つけられずにいる。それだけでなく、相変わらずリベラル寄りの政策を掲げており、保守寄りにシフトした無党派の民意をつかみ損ねているのではないか。

結果として、保守系無党派層の支持は、民主党の流れを最もくむ立憲民主党にはほとんど流れず、日本維新の会や国民民主党、その他の小政党に割れているとみられる。2017年の衆院選では、希望の党が比例で約967万票を獲得している。1000万票近いこの支持層を獲得できる現実的な政策を打ち出すことができなければ、旧民主党勢力の再興は見込めまい。

「政治とカネ」の問題を引き起こした自民党一強

一方、2012年以来続く自民党一強政治も、その足元は揺らいでいる。岸田文雄首相の内閣支持率は2024年に入り、20%台に低迷している。政策的に何をやりたいのかが見えず、確たる展望もないまま減税を提唱したことも国民に見透かされている。自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる政治資金規正法違反事件で、自民党の支持率も20%台に急落した。

写真=AFP/時事通信フォト
2012年の総選挙では自民党が圧勝し、3年3カ月ぶりに政権に復帰した(2012年12月16日)

「内閣支持率と与党第一党の支持率の合計が50%を切れば、政権は瓦解する」という、青木幹雄元官房長官が唱えた「青木の法則」の水準に既に達してしまっている。野党の体たらくで政権交代を求める世論が盛り上がっていないとは言え、自民党が危機的状況にあることは、過小評価すべきではない。

本書第七章で分析した、二党制の短所と多党制の優れた点に再び立ち戻れば、「二党制下の長期的一党単独政権は、支配層の腐敗を招きがちであるが、多党連立政権下では、相互の監視によって、政治的腐敗を未然に防止することができる」(282ページ)。長く続く自民党一強によるおごりが、今回の「政治とカネ」の問題を引き起こし、また放置する土壌となったことは疑いようがない。