日本の法律では「裁判官の令状」が必要

しかし、日本ではこうした捜査を行うことは難しいのが現実です。

以下は、先に紹介した2月21日の国会(参議院内閣委員会)でのやりとりです。警察庁交通局長が、血液採取について以下のような答弁をしています。

●早川政府参考人(警察庁) 血中のアルコ―ル濃度を測定する場合には、血液を本人の身体から採取することから、裁判官が発付する鑑定処分許可状等の令状を得て、医師により血液を採取し、血中のアルコール濃度の鑑定を行っております。この場合には、一般的に、呼気による検知と比べまして、鑑定までに時間を要することから、時間の経過とともに体内のアルコール濃度が減少するということも考慮する必要があると考えております。

つまり、容疑者から血液を採取するには、「裁判官の令状」を取ってから医師に依頼するよう法律で定められているため、現状の制度では時間がかかりすぎる、そのため、結果的に交通事故などの捜査では、直後に血中アルコール濃度を検査することはできない、というのです。

血液検査のハードルは高すぎないか…遺族が抱く捜査への疑念

そんな中、和田さんは遺族として耐え難い思いをしたと言います。

「事故から数カ月後、私は警察に加害者の血中アルコール濃度について尋ねました。そうしたら、それは調べていないという答えでした。ところが信じられないことに、息子の遺体からは、わざわざ血中アルコール濃度検査のために血液を採取していたのです。その事実を知ったときには本当に驚き、ショックを受けました。塾帰りに被害に遭った樹生はまだ15歳。身元も判明していました。当然ですが樹生からアルコールは検出されませんでした。加害者こそ血中アルコール濃度検査をすべきではなかったのかと疑念を抱きました」

樹生さんをひいた乗用車。(写真提供=和田さん)

飲酒運転で死亡事故を起こした容疑者からは血液を採取せず、亡くなった被害者からは血液を採ってアルコールの検査を行う、このようなアンバランスな捜査がまかり通ってよいのでしょうか。

河本さんもこう語ります。

「現在の捜査は、警察官が事故を起した加害者の酒臭に気づいた時に呼気アルコール検査が行われていますが、最低でもすべての死亡事故で、簡易的な呼気アルコール検査ではなく、血中アルコール濃度検査を行なえるようにしていただきたいです。私は看護師なのですが、医療現場では血糖値を測るために指先から血液を採取する簡易な器具等を使っています。たとえば、そのような器具を開発し、本人に血液を採取させれば、令状は必要ないと思います。もしくは救急隊員や警察官が現場で血液を採ることができるように法律を見直してほしいです。そもそも、呼気だけでは薬物は検出できません。最近は危険ドラックを販売する店舗がまた増えてきているそうです。車を凶器に変え、人を死傷させた際にはあらゆる容疑を視野に入れて捜査していただきたいです」

国は遺族の声に耳を傾けてほしい

アルコールや薬物などの証拠は、時間の経過とともに刻々と証拠が消えてしまいます。飲酒事故においては、和田さんや河本さんのように、警察や検察の捜査に長年疑念を抱き続けている交通事故遺族が少なくありません。

法務省で「自動車運転による死傷事犯に係る罰則に関する検討会」が開かれている今、飲酒や薬物使用による交通事故を起こした場合は、曖昧な呼気検査だけでなく、必ず血液も採取し検査することも検討すべきではないでしょうか。国が本気で力を注げば出来ないことはないはずです。

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