飲酒運転の死亡事故が「運転ミス」で済まされる現実

飲酒、速度違反、横断歩道上での死亡事故、その上、救護義務を怠り、証拠隠滅とも取れる悪質な行為を重ねていた加害者……。ところが検察は、「危険運転致死罪」ではなく、「過失運転致死罪」で起訴。判決は、禁固3年執行猶予5年というものでした。警察が行った呼気アルコール検査の結果、酒気帯びの基準値である0.15mg/Lをわずかに下回っていたため、結果的に「事故に酒の影響はない」と判断されたのです。

樹生さんの遺影。横断歩道を横断していたところ、乗用車にはねられ亡くなった。
筆者撮影
樹生さんの遺影。春には志望する高校に入学するはずだった。
和田さん夫婦。
筆者撮影
和田善光さんと真理さん夫婦。樹生さんが最後に履いていたスニーカーを今も大切に保管している。

和田さんは語ります。

「酒を飲んで運転したことは明らかでも、呼気アルコール検査の数値が、酒気帯び運転の基準値である0.15mg/L以上か未満かで、その刑罰には天と地ほどの差が生じます。道路交通法は飲酒運転自体を禁止しています。しかし、呼気アルコール検査の数値が基準値未満であれば、危険運転どころか道路交通法違反(酒気帯び運転)での処分すらありません。令和5年酒気帯び運転の基準値(0.15mg/L)未満の死亡事故は15件発生しています。これは酒気帯び運転(0.25mg/L未満)の死亡事故5件の3倍の件数です。また、飲酒検知不能の“飲酒あり”の死亡事故が13件も発生していることにも問題を感じます。厳罰化されたはずの飲酒運転ですが、そもそも呼気検査の数値は本当に正確だといえるのでしょうか」

【図表2】原付以上運転者(第1当事者)の飲酒別死亡事故件数の推移
警察庁「令和5年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」
【図表3】危険運転致死傷罪等の適用件数の推移
警察庁「令和5年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」