発売前までは「革新性に驚かされた」と絶賛

前評判はずば抜けて良かった。発売まで1カ月ほどを残した今年2月末、スペインで開催された世界最大級の年次モバイル技術見本市「モバイルワールドコングレス・バルセロナ 2024(MWC 2024)」に出展されると、テック関連各誌から賛辞が押し寄せた。

写真=Humane press kit
Ai Pinの装着例1

米CNETは、同誌が独自に選ぶ「ベスト・オブ・MWC 2024」に選出。数多く出展されたAI関連製品のなかでも、AI活用の「まったく新しい方法」であり、「その革新性に驚かされた」と講評している。

英最大規模のガジェット誌「テック・レーダー」は、MWCのベスト・ウェアラブル・デバイスに選定。「実に革新的」「実際に動いているのを見るまでは半信半疑だったが、実際に使ううえでの各種問題に対して配慮がなされているのを目の当たりにして、本当に嬉しかった」と称える。

ほか、米PCマガジンなど各誌が「ベスト・オブ・MWC 2024」にピックアップ。米タイム誌は製品発表後の昨年10月、「ベスト・インベンションズ・オブ・2023(最優秀発明賞2023)」のひとつに挙げている。同誌は、「スクリーンのない未来」をHumaneが構想しており、「Ai Pinはその第一歩である」と紹介。スマホに代わる新たなデバイスとして、大きな期待を寄せていた。

写真=Humane press kit
Ai Pinの装着例2

発売後、世間の評価は一変した

海外メディアが絶賛したAi Pinだったが、今年4月11日の発売後、世間の評価は一変した。製品が実際のユーザーたちの手に渡ると、鮮やかなデモとはほど遠い、苛立ちを覚えるほどの使い勝手の悪さが明らかになった。

ニューヨーク・タイムズ紙の記者は、「シックな美学とコンセプトが好きだった」と述べ、デザインを好感。意気揚々とトライアルに臨んだようだ。

役に立った場面は確かにあり、ハワイへの旅行の荷造りをしていると、帽子や日焼け止めなどを勧めてくれた。「とてもクールだ」と記者は言う。

だが、肝心のハワイではまるで役に立たなかった。ホテル近くのロコモコ店の名前を検索しても、結果は得られない。結局のところ、スマホでの検索を余儀なくされたという。

植物園で花の名前を尋ねた際には、カメラで捉えた花の色を正確に答えたものの、本来の質問である花の名前については回答がなかった。隣にいた妻は、「ウコンラッパバナよ」と事もなげに言う。Google画像検索であっという間に出てきたようだ。最新ガジェットを活用する目論見だった記者は、「居心地の悪い思いをした」と振り返る。

ほか、ファインダーなしでの写真撮影は、画角が掴めず難しい。音楽再生機能は、現在のところ主流ではない音楽ストリーミングサービス「Tidal」のみに対応するなど物足りず、不満を募らせたようだ。